これが戦後の一つの区切りとなるのだろうか。安倍晋三首相が年末に米国のハワイを訪問し、日米開戦の発端となった真珠湾で戦争犠牲者を慰霊する。オバマ大統領が5月に被爆地広島を訪問している。その返礼ともいえる今回の慰霊は日米関係の強さを世界に向け、発信する狙いもある。そこには、日米同盟への理解が十分といえない次期大統領のトランプ氏を意識した両国政府の思惑も垣間見える。

 世界で初めて原爆が投下され、多くの市民が犠牲になった広島と、奇襲攻撃で若い米兵たちの命が奪われた真珠湾。日米首脳が太平洋戦争の象徴ともいえる場所へ相互訪問することは先の大戦に区切りをつけ、両国の関係を前に進める狙いがある。

 安倍首相は「未来に向け、戦争の惨禍は繰り返さないという決意を示す。日米の和解の価値を発信する場にもしたい」と思いを語った。長年の懸案解決に道筋をつけたことは評価できるだろう。

 オバマ大統領の8年間の任期ももうすぐ終わる。本来なら2人の相互訪問を「レガシー(政治的遺産)」とするのがシナリオだったと思う。不測の事態というべきか、「何事もアメリカ最優先で考える」と同盟国との関係見直しさえほのめかすトランプ氏が大統領選に勝ち、状況が変わった。

 米国には日本への不信感が「リメンバー・パールハーバー(真珠湾を忘れるな)」との言葉とともに残る。大衆感情に敏感なトランプ氏は選挙期間中、オバマ大統領の広島訪問を「真珠湾の奇襲攻撃について話はしたのか? 何千人の米国人の命が失われたんだぞ」と批判した。オバマ大統領の任期中でなければ、慰霊は実現できないと危機感もあったという。

 菅義偉官房長官は会見で、「強固な両国の同盟がアジア太平洋地域の安定に大きな役割を果たしていることを発信できる」と慰霊による和解の意義を訴えた。アジアには北朝鮮の核兵器開発、中国の海洋進出など安全保障上の脅威がある。トランプ氏に向けたメッセージのようでもあった。

 日本政府は一方で「謝罪のための訪問ではない」と繰り返している。昨年の戦後70年の首相談話にあるように「子や孫の世代に謝罪を続ける宿命を負わせてならない」という思いからだろうか。

 安倍首相は昨年5月、米議会の演説で「先の大戦では痛切な反省を胸に刻んだ」「真珠湾の犠牲者に対し、深い悔悟を胸に黙とうをささげる」と語っている。米政府高官も「謝罪は重要ではない」と、これ以上の言葉を求めていないようだ。ただ、真珠湾で初めて首相と会う遺族の思いに応える言葉をできる限り探してほしい。

 「真珠湾」に複雑な思いを抱くのは日本人も同じではないだろうか。多くの国民が犠牲になった無謀な戦争が始まったという意味でも象徴的な場所である。なぜ当時の政府や軍部が誤った判断を繰り返して戦争を始めたのか。多大な犠牲を顧みずに戦争を継続したのか。「謝罪」の問題は別にしても、十分な検証ができているとは思えない。

 オバマ大統領は広島で「核なき世界」を訴えた。安倍首相には多くの犠牲を出した先の大戦の教訓を胸に、世界に届く不戦の誓いを期待したい。(日高勉)

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