「きょうの日記は特別に、ていねいに書いて置きましょう」と書き出す、太宰治の短編小説『十二月八日』。ある主婦を主人公に、真珠湾攻撃の一日を丹念につづる。「ああ、誰かと、うんと戦争の話をしたい。やりましたわね、いよいよはじまったのねえ、なんて」◆早朝、赤ん坊に授乳しているとラジオから大本営発表が流れてくる。「しめ切った雨戸のすきまから、まっくらな私の部屋に、光のさし込むように強くあざやかに聞こえた」「日本も、けさから、ちがう日本になったのだ」。開戦直後の高揚感にあふれている◆それもつかの間、戦局は暗転し、日本は惨めな敗戦へと突き進んでゆく。東京をはじめとする全国各地への空襲、沖縄戦、そして広島、長崎への原爆投下-。そのシナリオの発端は1941年12月8日、真珠湾への奇襲攻撃だった◆今年5月、米国のオバマ大統領が広島を訪れた。直接の謝罪の言葉はなくとも、かつて戦火を交えた両国が戦後に区切りをつけ、未来へと歩もうというメッセージは明確だった。オバマ氏の広島訪問に応えるように、今度は安倍晋三首相がハワイへと向かう◆真珠湾は米国人にとって屈辱の象徴であり続けてきた。広島に続いて、真珠湾で恩讐を越える、75年を隔てた和解の日。その瞬間を日記に書き付けられる平和をかみしめる。(史)

このエントリーをはてなブックマークに追加