“常識”が、がらがらと音を立てて崩れる瞬間がある。全国屈指の進学校として知られる開成高校の野球部を扱ったノンフィクション『弱くても勝てます』(高橋秀実著、新潮文庫)は、まさにそんな一冊だ◆グラウンドでの練習は週1回だけ。下手くそな守備は「エラーは相手の油断を誘う」と捨てて、バッティング練習に専念する。「『10点取られる』という前提で一気に15点取る」作戦である。打順も「輪として考える」発想で、最強打者を2番にひそませ、打たれて相手が浮足だったところをたたみかける◆春の選抜高校野球大会出場が決まった伊万里高校もまた、県内有数の進学校である。練習時間が限られ、短い日はたった90分だけ。10分刻みのメニューを作り、ひたすら効率を追求してきた◆その懸命さを地元も支える。5年前に伊万里市がさまざまな団体と立ち上げた「『目指せ!甲子園』プロジェクトチーム」である。社会人チームを招いて小中学生向け教室を開くなど、早い時期からトップクラスの強さに触れさせた。その成果が、伊万里高校の佐賀大会準優勝、67年ぶりの九州大会出場へと結びついた◆冒頭の開成は地区大会でコールド勝ち連発の快進撃を見せ、高橋さんは「希望は知性から生まれる」と記した。さて、伊万里高校の知性は、居並ぶ強豪にどう挑むだろう。(史)

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