「人間らしい働き方について真剣に考えるべき」と話した弁護士の小山一郎さん

■限界超すと人は壊れる

弁護士 小山一郎さん(47)

 ◆大手広告会社電通の女性新入社員が過酷な長時間労働の末、過労自殺した問題は社会に衝撃を与えた。

 女性社員が生前、SNS(会員制交流サイト)に境遇や心境を投稿していたため、細かい勤務状況や心の動きが明らかになった。電通は1991年にも社員が過労自殺しており、体質がなかなか変わらない。広告会社は究極のサービス産業ともいえ、休日にも顧客対応を求められるなど、労働と非労働の区別が難しい。問題になっているサービス残業も実態が見えにくいだけに、改善が進まない。

 ◆過労死弁護団の一員として佐賀県内で訴訟を担当し、電話相談会も開いている。佐賀は、過労死の数は都市部ほど多くはないものの、地方ならではの特徴も垣間見えるという。

 都会は地方から出てきて一人で暮らす若者が多く、会社を辞めづらい。逆に佐賀は実家で暮らしているケースが多く、辞めるという選択肢を取りやすい。

 それでも、心身のバランスを崩して通院しているケースがあるなど、統計に表れない形で長時間労働の影響を受けている人がいる。死に至らないまでも、健康な生活が害されてしまうのが過労という問題。「過労死」という言葉だけが強調されるのには違和感もある。水面下で進んでいる動きにも目を凝らすべきだ。

 ◆2014年に過労死等防止対策推進法が施行され、政府は今年10月に「防止対策白書」を初めて公表した。長時間労働の是正を柱にした「働き方改革」の議論も進んでいる。

 遺族が長きにわたり、過労死の救済や予防を求めてきたことが法律の制定につながった。遺族が声を上げなければならなかったという点では複雑な結果でもあり、国の動きは鈍い。

 「過労死ライン」とされる月80時間以上の残業をしている正社員がいる企業が23%に上る、という白書のデータは深刻だ。残業時間が事実上無制限になる労働基準法の「三六(さぶろく)協定」の見直しの議論で、労働時間制限の取り組みがようやく本格化する。仕事を終え、次に働くまでに一定の休息時間を取る「勤務間インターバル」を導入すれは、労働の質の向上にもつながる。

 白書が「過労死ゼロ」の目標を掲げた意味は大きい。しっかりとした規制を設ければ「ゼロ」は実現可能だ。規制や罰則を強化し、労働時間などの実態調査の精度を上げていけば、長時間労働の是正は進むはずだ。

 ◆取引先からの無理な要求に応えざるを得ないなど、日本的な労働環境や商慣習がハードルになっているとの指摘も多い。

 人間は限界を超えると壊れてしまう。そんな当然のことは、企業も労働者も理解はしている。しかし、取引先の要求にできるだけ応えるといった日本的な美徳や、業績や理念など、企業の「正義」に覆い隠され、見失ってしまう。痛ましい過労自殺が繰り返されてしまった今こそ、人間らしい働き方を真剣に考えなければならない。

こやま・いちろう 1969年、東京都生まれ。神戸大学法学部卒。2002年に司法試験に合格し、06年から佐賀県弁護士会に所属。日本労働弁護団や過労死弁護団などで活動している。鳥栖市。

2016 人権週間企画

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