唐津を舞台にした大林宣彦監督の映画「花筐(はながたみ)/HANAGATAMI」が、キネマ旬報の年間ベストテン2位と毎日映画コンクール大賞に輝いた。歴史ある映画賞の相次ぐ朗報に関係者の喜びもひとしおだろう。唐津のダイナミックな海、幻想的な曳山(やま)、そして社会に投げかけたテーマ性が、大林監督らしい独特の映像表現の中に織り込まれ、高い評価を受けた。戦争に突入していく暗い世相とそれに翻弄(ほんろう)される若者たち。「花筐」からは、大林監督の「命」を見つめる強い思いが伝わってくる。

 大林監督の映画は、その独自の表現手法から、やや難解だと評されることがある。「花筐」も、ひとつひとつのシーンに説明的なところがなく、どう解釈するかは観客にゆだねられている。そのため、見ている人は、切れ目なく続く場面がどんな意味を持つのか、絶えず反芻(はんすう)しながらつかみ取ろうとする。その意味で緊張の連続だといっていい。

 例えば、会話のたびに左右に入れ替わる人物は、一人の人間の感情の揺れを表しているのか。あるいは、人の持つ二面性を表現しているのか。知らず知らずのうちに映像に引き込まれ、いつのまにか独自の世界に浸ってしまう。大林映画には、そんな魅力がある。

 こうした作風は、1966年に彼が自主製作した16ミリ映画「EMOTION伝説の午後=いつか見たドラキュラ」から綿々とつながっている。その作品は登場人物がコマ送りで動き出し、ストップモーションなど実験的な表現が多くちりばめられ、当時、映画を志す若者を熱狂させた。そして、自主製作の波は、情報誌「ぴあ」が始めた自主製作映画のコンテストにつながり、のちに多くの著名な監督を生み出している。

 自由な表現を求める自主製作映画に先鞭(せんべん)をつけた大林監督。「花筐」でも印象的な場面が数多く出てくる。教室から見える唐津の海、それもエネルギッシュな荒波だ。そこにピンク色の花吹雪が舞う。まるで幾何学模様のような虹の松原も、ぽっかり浮かぶ高島も、唐津の風景を見事に切り取っている。

 しかも、映画の前半はほとんど登場しない「曳山」が、終盤に「命」を吹き込まれたように目の前に現れ、街の中を、松原の中を、列をなして練り歩く。戦争に巻き込まれていく若者と、ただ送り出すことしかできない人々。そのやるせない時代の空気を、おぼろに浮かぶ宵山(よいやま)に織り込んでいくクライマックスシーンは圧巻だ。

 キネマ旬報は100年近い歴史ある映画雑誌。ベストテン選出は今回が91回目になる。100人以上の映画評論家や編集者がそれぞれ10本を選んで点数をつけ、その合計でランキングが決まる。合議制ではなく、透明性の高い賞として定評がある。毎日映画コンクールも72回を数える賞だ。どちらも過去の受賞作は、長い映画の歴史に、その名を刻んできた。

 「花筐」は、県内ではイオンシネマ佐賀大和(佐賀市)で上映している。大林監督が命をしぼるようにして撮影し、今の時代に伝えようとした渾身(こんしん)のメッセージ。それはきっと、素晴らしい唐津の風景とともに、映画を愛する人の心に残っていくだろう。(丸田康循)

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