旅先のモロッコで露店をのぞいた作家の北方謙三さん。口ひげの男が声をひそめて「これは、ナポレオンの頭蓋骨なのである」「嘘(うそ)つけ。ナポレオンは頭がでかかったというぞ」「これはな、ナポレオンが三歳の時の頭蓋骨なのだ」-◆『週刊新潮』(1月18日号)のエッセーで書いていた。意表を突く言い訳に思わず吹き出したが、近頃はすっかりフェイク(偽物)ばやりである。その震源は就任1年を迎えたトランプ大統領だろう。先週、自らがうそとみなした報道を「フェイク・ニュース大賞」として発表した◆自身に批判的なメディアばかり選んでおり、トランプ大統領の誕生で「これで経済は決して回復しない」と分析した経済学者のコラムを載せた新聞がやり玉に。事実をねじ曲げる当の本人が選んだだけに、選ばれた側は逆に光栄かもしれない◆ファッションの世界では、人工的に作られた毛皮を「フェイク・ファー」と呼んできたが、最近は変わってきた。偽物ではなく、立派なエコという意味で「エコ・ファー」なのだとか。こちらは代替品から抜け出して、積極的に支持されているわけだ◆冒頭の頭蓋骨、男がつけた売値は、なんと3万円。「これぐらいいかがわしいと、ふむふむと聞き入ってしまう」。フェイクの時代、せめて楽しみながら「嘘つけ」と突っ込むとするか。(史)

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