安倍晋三首相が衆院本会議で施政方針演説を行った。「明治150年」にちなみ、明治の国難を乗り切った先人の言葉を引きつつ、100年先を見据えた「新たな国創り」に取り組む決意を語った。

 「国の力は、人に在り」「研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし」「50年、80年先の国土を富ます」-。教育、経済、行政それぞれの立場から、国の行く末を見据え、自ら行動に移した先人の姿勢である。

 その気概が、現在の私たちにも求められている、というメッセージそのものは、広く共感を得られよう。

 だが、どうにも違和感がぬぐえないのは、なぜか。

 例えば、看板政策の「働き方改革」。誰もが能力を発揮できる働き方を実現するという理想を掲げて、時間によらず成果で評価する柔軟な労働制度へと後押ししたいのだという。

 一見、いいことずくめのようだが、そこに危うさが潜んではいないか。確かに、職場で働く時間は短くなるかもしれないが、実際には家庭に持ち帰って業務をこなすなど、目に見えないサービス残業がはびこる恐れがあるからだ。

 この点では野党からも「残業代ゼロ法案」などの批判が寄せられている。働き方改革を進めるならば、政府は外形的な制度を整えるだけでなく、長時間労働をどう防ぐかなど実効性ある対策を示す必要がある。

 「格差」是正にしても、基本的な方向性がずれてはいないか。

 安倍首相は「非正規という言葉を一掃する」として、サラリーマン向けの控除制度の見直しを挙げた。つまり、サラリーマンを恵まれた既得権益層とみなし、その所得を引き下げることで、格差を縮めようという発想のようだ。本来は、厳しい雇用条件に置かれている非正規労働者の待遇を押し上げるのが政治の役割ではないか。

 先送りした課題も目立つ。

 「人づくり革命」では、幼児教育の無償化の対象は「この夏までに結論を出す」、高等教育無償化の詳細な制度設計も「夏までに結論を出す」とした。

 社会保障制度を「全世代型」へ転換させるにしても、財源の裏付けはどうするのか。これもまた、「この夏までにプライマリーバランス黒字化の達成時期と、裏付けとなる具体的な計画を示す」。

 夏まで待たねば具体的なプランが出てこないようでは、会期6月までの今国会で議論が深まりようもない。

 外交面では、米国追従の姿勢が一層際立った。安倍首相がトランプ大統領と緊密な関係を築いているのは心強いが、それにしても単に追従するようでは困る。

 国際社会においては、トランプ氏の「米国第一主義」が混乱と分断を招いている現実があるからだ。同盟国として、米国と国際社会の橋渡し役を務めるのはもちろん、時には率直に苦言を呈する気概がほしい。

 憲法論議についても、まったく物足りなかった。「新たな国創り」を呼びかける以上、肝心の憲法論議を避けては通れない。ここは明治の先人にならって、安倍首相は自らの言葉で未来を語るべきではなかったか。「国創り」の名にたがわぬ、正面からの国会論戦を求めたい。(古賀史生)

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