明治以後、無数の「上京者」が、不安と期待を胸に東京を目指した。夏目漱石の小説『三四郎』の主人公もその一人◆福岡出身の三四郎は、熊本の旧制五高を卒業し、東京帝大へ進学するため汽車に乗る。やっと着いた東京に度肝を抜かれた。「ちんちん電車」に、にぎわう「丸の内」、そして最も驚いたのは「どこまで行っても東京がなくならない」ことだった◆今も魅力を発し続ける東京。多くの学生が23区内の大学で学ぶ。その定員を、東京への一極集中を食い止める目的で政府が抑制するという。定員増を10年間、原則認めない―。そんな法案を国会に提出する方針。ちょっと待ってくれ、と言いたくなる。若者の人生の選択を、政治の力でねじ曲げるような感覚を覚える。効果のほどを思うと疑問符もつく◆東京の大学を目指す理由はさまざま。三四郎が経験したような多くの刺激、あこがれもある。何より卒業後の就職先のことは大きい。選択肢も幅広く、東京で学ぶ有利さを考えるのが現実だろう。確かに偏りは良くない。まずは地方に雇用をつくり、地方の大学の活性化をと思う◆政府も、そこは考えているようだ。学生が地方の大学を選ぶようにするための交付金を創設する。とはいえ、簡単ではない。学びと生活基盤の磨き上げをする―。それが遠いようで近道ではないか。(章)

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