戦後50年の1995年は、特異な年だった。1月の阪神・淡路大震災の衝撃が続く中、3月には地下鉄サリン事件が起きた◆「それらを通過する前とあととでは、日本人の意識のあり方が大きく違ってしまった」と、作家の村上春樹さんが著書『アンダーグラウンド』で指摘している。「圧倒的な暴力」の前に、私たちの社会は「あまりにも無力、無防備であった」と◆オウム真理教をめぐる一連の裁判が、ようやく終わった。坂本弁護士一家殺害事件、松本サリン事件、そして地下鉄サリン事件…。これから、死刑囚13人の刑執行が本格化するが、すべてを首謀した男は裁判で、まともに語ってさえいない◆後には、大切な人を奪われた遺族の悲しみと、サリンの後遺症に苦しむ人たちが残された。「麻原逮捕の日に、地下鉄でサリン事件がまた起こったんだと思いこんで、パニック状態で飛んできた方がいました」。医師の証言を村上さんは書いている。フラッシュバックである。関連ニュースにふれただけで、“あの日”に引き戻されてしまうのだという◆信者たちは怪しげな「ホーリーネーム」を名乗り、建物を「サティアン」と呼び、殺人を「ポアする」と言い換えた。がらくたの寄せ集めのような物語に、なぜ彼らは引き込まれたのか。深い闇が、今なお、ぽっかりと口を開けている。(史)

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