〈沖辺行き 辺を行き今や妹がため 吾が漁れる藻臥し束鮒〉。万葉集に収められた、高安王(奈良時代の皇族)が想い人の娘子に贈った歌である。藻臥しの束鮒は、藻の中に潜む鮒のこと。沖の方へ出たり岸に戻ったりして、今、あなたのために捕った鮒だよ―。そんな意味だ◆鮒は大昔から食していただろうが、飛鳥時代からの逸品は琵琶湖産。近江(滋賀県辺り)に都を置いた時代もあり、古代の法典「養老令」にも近江鮒が登場する。鮒ずしにして朝廷への貢ぎ物にしていたようだ(廣野卓著『食の万葉集』)◆日本のすしの歴史は鮒ずしなど、なれずしに始まる。魚介類を用い、塩と米の飯を混ぜて乳酸発酵させた保存食だ。水田稲作と深い結びつきがあるとされ、文化人類学者の石毛直道さんは、タイ東北部とラオスが、なれずしの源流地との仮説を立てた◆クリークが多い佐賀も鮒を好んできた。あすは鹿島市浜町の酒蔵通りに、伝統の「鮒市」が立つ。出店業者が減ってきたのは寂しいが、早朝6時半から始まる郷土料理「鮒んこぐい」の試食では、変わらぬ味に出合えるだろう◆うれしいのは、授業の一環で地元の浜小の子どもたちが来て、地域の人たちと交流することだ。今に生きる人々は、続いてきたふるさとの行事を大切にし、後世に引き継ぐ大きな役割を担っている。(章)

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