経団連次期会長に、日立製作所会長の中西宏明氏が内定した。5月から4年間、財界トップとして日本経済の発展を民間の側から担う。リーマン・ショックで危機に陥った時期に日立副社長を務め、業績を回復させた経営手腕は高く評価されている。日本経済の最大の課題であるデフレ脱却に、その力を十分発揮してほしい。

 まずは春闘がポイントになるだろう。消費拡大、物価上昇の前提となる十分な賃上げの実現には経団連の積極的な関与が欠かせない。労使交渉のヤマ場は中西氏の会長就任前だが、次期体制の成否を占う前哨戦とも言える。企業がため込んだ巨額資金の活用法に社会の目が集まっていることは経団連も十分認識しているはずだ。副会長の立場からの取り組みになるが中西氏は先頭に立って企業経営者にその意義を説くべきだろう。政府からの要請もあったが、経営判断としての賃上げを目指したい。

 企業経営は大きな変革期に差し掛かっている。自動車産業がガソリン車から電気自動車(EV)にかじを切り、自動運転の開発を進めているように、あらゆる分野で、さまざまな機器をネットワークでつなぐ技術(IoT)や人工知能(AI)の活用によるビジネスチャンスが広がってきた。人手不足を補うロボットの活用も進んでいる。

 飛躍のチャンスであるが、出遅れるとライバルに市場を全部持って行かれる厳しい競争になる。変化を恐れずに成長分野に経営資源を思い切って投入する姿勢が求められる。縮小する市場にしがみつきながら、新規分野への挑戦を怠っていてはいずれ壁にぶち当たる。

 時代の変化に戸惑っている経営者も多い。ITに精通し国際経験も豊富な中西氏には、日本の産業界に「攻めの経営」を植え付けてほしい。

 一方で、攻める前に足元を固めなければならないこともある。日産自動車などによる不正検査や、神戸製鋼所などによる品質データ改ざん問題は産業界への信頼を損ねた。JR東海のリニア新幹線を巡る大手ゼネコンによる談合は、公正を軽視する旧態依然たる体質がいまだに残っていることを浮き彫りにした。病巣をしっかり取り除き、確実に再発を防止する手だてを講じなければならない。

 日本経済は人口減少や少子高齢化、これによる国内市場の縮小といった構造的問題に直面している。国際情勢も激動し、「米国第一」を掲げるトランプ政権がこれまでの国際経済秩序を混乱させ、世界第2の経済大国になった中国の強権的な政策運営は世界各地で変動をもたらしている。

 国内外に山積する難問にどう対応するか。これまでの手法では歯が立たないのは明らかだ。歴史の転換点で経団連に求められる役割とは何か。目先の選挙や短期的な成果に左右されがちな政権に対し、長期的観点からの国益を考え「言うべきことは言う」態度ではないか。今の「安倍1強」は、与党内でも幅広い政策論議が乏しく、野党も離合集散を重ねたあげく力を失いチェック機能を十分果たせていない。

 中西氏は安倍晋三首相との近さも会長起用の理由になった。政権との良好な関係は悪いことではない。だが「財界総理」は、必要あらば首相をいさめる役割も担っていることを指摘しておく。(共同通信・高山一郎)

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