九州新幹線長崎ルート(画面奥)の嬉野温泉駅(仮称)前には、嬉野医療センター(左)だけが着々と建設されている=9日、嬉野市嬉野町

駅周辺の景観見通せず

 高い泉質の温泉が湧くなど、観光を主産業の一つとする嬉野市。バブル崩壊から長く続いた低迷からは少しずつ上向きつつあり、2022年度には九州新幹線長崎ルートも開業する。14日告示、21日投開票の嬉野市長選・市議選を前に、市政の課題を探った。

 「フル規格になっとやろうな」。昨年12月、九州新幹線長崎ルートの沿線5市や商工業団体が嬉野市で開いたシンポジウム。整備方針を決める与党プロジェクトチーム(PT)に属する国会議員が祝辞を述べようと登壇した際、会場から冒頭のヤジが飛んだ。シンポジウムは事実上の決起大会の様相で、独特の熱気に包まれていた。

 2022年度の暫定開業まであと4~5年。長崎ルートの整備方針を決める与党PTは昨年9月、フリーゲージトレイン(FGT、軌間可変電車)の導入を前提とする計画の見直しへ向け、全線フル規格化やミニ新幹線を含めた議論を始めた。国は3月に費用や投資効果の検討結果を報告する。

 困難さを増すFGT開発の現状に、嬉野市内では、関西直通運転を求めて全線フル規格化への機運がますます高まっている。一方で佐賀県は、800億円とされる追加負担を理由にフル規格化を「議論する環境にない」との姿勢を崩さず、両者には隔たりがある。

 暫定開業時は、武雄温泉駅で在来線と新幹線を乗り継ぐ「リレー方式」で運行される。乗り継ぎは同じホームの対面で可能にする計画だが、「そのひと手間が嬉野から客足を遠ざける」とリレー方式による開業効果を疑問視する声もある。

 フル規格化を求めてきた市は、リレー方式で開業効果が薄れるとの懸念には否定的だ。任期最後となる昨年12月の定例議会で谷口太一郎市長は強調した。「地域に魅力があれば人は来る。西九州全体で連携した魅力づくりが必要だ」

 開業に向けたまちづくりも残された時間は多くない。駅建設地のすぐ西側には現在、2基の巨大なクレーンと鉄骨の骨組みがそびえ立つ。19年5月末の完成を目指し移転新築中の嬉野医療センター。だが、駅前の他の区画は更地のまま。現場に立っても、開業時の景観を見通すのは難しい。

 駅周辺のまちづくりについては16年3月末、市民や有識者、観光関係者からなる検討委員会が、健康や癒やしがテーマの回遊空間とする案を市に提言した。委員長を務めた佐賀大の三島伸雄教授(都市工学)は「これまでの新幹線駅前とは全く違う新しい空間」と自負する。市も「基本は提言書に沿って整備していく」方針を示すものの、実行は新市長に委ねられる。

 6月にまちづくり会社「嬉野創生機構」を市内に設立した古田清悟さん(40)=嬉野町下宿。「新幹線の駅ができるという、100年後の人たちが思い起こす時代に私たちはいる。いろんな人を巻き込み、市民みんなで考えていかないと」。鉄路のない嬉野に初めて通る高速鉄道をどう生かすのか。いま、まちの未来を決める岐路に立っている。

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