数の子、なます、昆布巻き。田作り、黒豆、栗きんとん。今年のお正月はおせち料理をいただかれましたか。おせち料理を歯科医の立場からみると、バラエティーに富んだ食感を楽しめる食材が多いことに気づかされます。数の子のプチプチ感、栗きんとんのねっとり感、田作りの歯ごたえなど、一年の初めにそれぞれの食材に合わせて、お口の中は咀嚼(そしゃく)や嚥下(えんげ)などいろいろな仕事をしたことになります。

 最近、あるテレビ番組で、“噛(か)んで食べる”から“飲み込む”までの一連の動きを動画(エックス線による嚥下造影透視画像)で紹介されていました。大変複雑なメカニズムがあることが解説されていましたが、複雑というのは、咀嚼の運動が脳に対してとても多くの信号を送り、逆に脳からはお口や喉へ信号が送り返されてきて、正常な飲み込みができるという相互機能です。しかも、お口と脳のやりとりだけではなく、顔の表情や身体の動きも活発になるような影響を及ぼす様子が放映されていました。

 高齢になると食事中にせき込んだりしてしまうことが多くなりがちですが、これは誤嚥(ごえん)で、この誤嚥によって肺炎を起こしてしまう事例もたくさんあります。咀嚼の衰えが嚥下の衰えに連鎖し、やがては全身も不活発になってしまうのかも知れません。寝たきりであった人が、訪問歯科診療を受けることによって自力で食事ができるようになると、誤嚥も肺炎も少なくなり、自力で立ち上がり、歩行もできるようになって、やがては旅行に行けるほど回復したというエピソードは枚挙にいとまがありません。

 自力で噛む、食べるという行為は生き物が命を支える基本ではありますが、単純に見えるその咀嚼運動の恩恵は大きく、まだまだ研究の途中にあります。今年もまた、さまざまな食材を通じて、身体を動かし、脳を刺激して、健康で笑顔を分かち合える一年でありますように。(すみ矯正歯科院長 隅康二)

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