IT(情報技術)を駆使して国内外に活躍の場を広げる事業者が増えている。経営規模や地域の垣根を越えて、教育やアパレル、農業分野で飛躍する佐賀県内の先進事例を紹介する。

 

●グローディング(佐賀市)=教育アプリ開発        

「美文字判定アプリ」300万件 折り紙動画米CMにも

折り紙や美文字アプリを開発したグローディングの武藤樹一郎代表=佐賀市

 電子メール全盛の時代だからこそ、ありがたみが増す手書きの文章。佐賀市の教育アプリ開発「グローディング」は、肉筆の出来栄えをチェックするアプリ「美文字判定」を2014年から提供している。

 練習できる文字はひらがなとカタカナ、基本漢字50字。スマートフォンやタブレットに人さし指で文字を書くと、即座に判定結果が出る。100点満点での採点に加え、「美」「並」「残念」の3段階判定、美文字になるための助言が表示される。ダウンロード数は累計約300万件で、1日に平均7万字が書かれることも。英語版は米国の大学が教材に採用しているという。

 創業当初から手掛ける「折り紙アプリ」も、ダウンロード数が500万件を超える人気。鶴やカエルなど約300種類の折り方を動画で分かりやすく紹介する。アルファベットや文字の折り方は独自に考案したもので、米アップル社のCMにも採用された。富士山や松、招き猫など正月の遊びに最適な「縁起物折り紙」もある。

画面をなぞるだけで判定してくれる美文字判定アプリ

 武藤樹一郎代表(43)は、米国コロンビア大学でデジタルメディアを学びながら起業した経歴を持つ。「折り紙は他国になく、日本が世界に誇れるキラーコンテンツ。教育的効果があり、誰もが気軽に日本文化に親しめる遊び」。欧米でダウンロードが多い理由をこう分析する。

 同社はこれまで小中学生の算数や社会、理科の学習ドリルなど約400種類の教育アプリを開発してきた。いずれもアップル、米グーグル社のアプリ配信サービスから無料で利用できる。「自分の娘に遊んでもらおうと作ったのがきっかけ。テレビゲームと違い、創造力を刺激して楽しく学べるアプリをこれからも手掛けていく」。武藤代表は力強く語った。

 

 

●メルシー(佐賀市)=アパレルショップ     

14坪で売上高6000万円 ブログ閲覧月14万人

インスタグラムなどで県外からも誘客を図り、売り上げを伸ばしている「メルシー」=佐賀市の同店

 14坪の小さな店内は週末になると、長崎や福岡などからの県外客も増え、女性たちの明るい声が響く。佐賀市呉服元町のアパレルショップ「メルシー」。写真共有アプリ「インスタグラム」やブログで入荷したばかりの新作を続々と投稿、ブログの閲覧者は月14万件に上る。売り上げは毎年右肩上がりで、2017年度は6千万円を突破した。

 ガレージを改修して2011年にオープン。同市出身の松田潤社長(33)が妻と2人で始めた店のスタッフは現在、事務・経理担当を含め8人になった。

 「どうせやるなら、佐賀でも面白い仕事がやれる場所を作りたかった」(松田社長)と14年に法人化。人材確保に苦労する企業が増える中で、昨春は初めて県外出身の大卒社員2人を迎え入れた。

メルシーのスマートフォンサイト。ネットショップの販売も好調だ

 空洞化が叫ばれて久しい市街地にありながら、開業以来、毎年増収を確保。節約志向の高まりなどで不振にあえぐアパレル業界で躍進を続ける。

 「どこでやるかは関係ない」と、松田社長は言い切る。人気のスタッフブログをはじめ、インスタのフォロワーは7400人。インターネットでの販売額も全体の2割近くを占めるが、「価値観を共有できる場所を探している人は多い」。お気に入りの服を着て、おしゃれと食事を楽しむ“アナログ”のイベントも開き、客の心をつかんでいる。

 価格競争力や集客力に勝る大型店との競合も激しさを増す一方で、欲しい情報に瞬時に近づくことができる情報化社会の進行が、消費に変化をもたらしていると感じる。

 「これからは、『あそこに行けば何かがある』ではなく、『これがあるから行く』店が選ばれる時代」。場所や規模を問わず、商売のやり方一つで「面白い仕事」がやれると確信している。

 

 

●吉野ヶ里あいちゃん農園(神埼郡吉野ヶ里町)

西洋野菜中心に300種 ネット販売月800件

配送用の野菜を仕分けする森田浩文さん=神埼郡吉野ヶ里町

 トレビスやビーツ、イタリアナス…。約5ヘクタールの畑で手作りの有機肥料を使って育てる色鮮やかな品種は、年間約300種類にも上る。

 珍しい西洋野菜を中心に栽培する神埼郡吉野ヶ里町の「吉野ヶ里あいちゃん農園」は、インターネットを使った野菜の宅配、通販にもいち早く取り組んできた。旬の野菜を数種類ずつ詰め合わせ、全国に直送。ふるさと納税の返礼品としても人気を集めており、飲食店や個人に向け、月に約800件出荷する。

 園主の森田浩文さん(44)は、かつて福岡で不動産業や飲食店経営を手掛けていた。知り合いのシェフの間で西洋野菜が高値で取引されていることに注目し、2009年に就農後、独学で西洋野菜の栽培を始めた。インターネットで商社から種を仕入れ、見た目と味がいい品目を中心に拡大。レストランに対してメニューの提案も行ってきた。

タブレットで野菜の写真を撮る森田浩文さん。ホームページなどで生育情報も紹介している

 ネット販売に取り組んだのも就農直後から。当時は野菜の販売は珍しかったが、集客力と情報発信力を生かそうと、SNSやメーリングリストも活用してきた。「『今の時期はこの野菜が採れ始めました』と写真を撮って伝えれば、見た人からすぐにオーダーが入る。この作業はアナログではとてもできない」と話す。

 食の安全・安心志向もあり、農園のファンは全国に広がった。ただ、今では野菜のネット販売も珍しくなく、専門業者の参入もあって競争は激化している。

 森田さんは、生産から販売まですべてを手掛けていることが強みと話す。「販売はネット会社に任せた方が楽だが、生産者としてのこだわりが伝えられなくなる。種まきからお客さんの口に入るところまで全部話せるスタイルでいたい」。モットーは「生産する八百屋」。今後も自分の手が届く範囲で顧客と向き合っていくつもりだ。

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