原泰久さん

北方謙三さん

 作家の北方謙三さん(70)=唐津市出身=と漫画家の原泰久さん(42)=三養基郡基山町出身=による歴史対談は、お互いの作風や創作活動での思い入れについても語り合った。迫真性を持たせるための工夫、物語を紡ぐ際に大切にしている視点…。大作を手がける創作者が持つ仕事の流儀が垣間見える。(進行役・富吉賢太郎編集主幹)

■北方「読後に時代見えるように」 原「何よりも娯楽性を重視」

 -それぞれ時代は異なるが、中国の歴史を舞台に大作を書かれている。お互いをどう見ているか。

 北方 表現者として尊敬し合っています。原さんは自分に持ち得ない目をお持ちだし、私が持っている目はお持ちでないかもしれません。原泰久にあって私にないもの、私にあって原泰久にないものがあり、それが友だちになることで、どこか知り合えることができます。それが創造者、表現者の付き合いの大事なところです。

 原 うれしいです。本当に涙が出そうです。

 -原さんは、北方さんの水滸伝を読んで「すごい傑作だ」といろんなところで話している、と伝え聞いている。

 原 大好きです。去年、『岳飛伝』文庫本1巻の解説文を書かせていただきました。文章だけで表現するのは、こんなに大変なのかと身をもって知ったのですが、とにかくそこで、恐縮ですが、感じたことを精いっぱい書かせていただきました。本当に面白くて大好きです。去年、先生にお会いした時に、本筋とは関係ないけれど、さばいたウサギのシーンが、なぜあんなにおいしそうなのかとうかがったら、ご自身で実際にさばいて食べられた体験からきているとのお返事でした。その言葉にハンマーで頭を殴られたような気がしたのを覚えています。

 北方 (「キングダム」にも)ウサギをさばいて食うシーンというのがありましたね。(主人公の)信が、夜中(野営地に)転がっている白老(蒙〓もうごう)につまずいて。信が「じいちゃんに食わしてやるよ」といって白老に食わせるシーンがありましたが、とてもいいと思いました。

 原 ありがとうございます。でも、次はちゃんと僕もウサギをさばいて、もっと上手に描きたいです。

 -原さんは、春秋戦国時代をテーマにした「キングダム」で描いている。その時代を選んだ理由は?

 北方 それは始皇帝を描きたかったんでしょ?

 原 始皇帝の名はみんな知っていますが、実際に何をした人かということを意外と知らない。僕も中華統一は分かるけど、実際、何を統一したんだろうと調べると、500年続いた戦争を収めたというものだった。これはものすごい大作、大いなるドラマが展開しているのにみんな知らない。これはチャンスと思いました。

 北方 それは始皇帝以前と始皇帝以後、なんです。始皇帝以前は、国が乱立していましたが、始皇帝以後は王朝が一つになりました。その後に項羽や劉邦とか出てきて漢という国ができたりしますが、実は政権がちょっと変わっただけなんです。次になったら別の時代になるというのは始皇帝が作りました。

 始皇帝の功罪というのはいろいろあると思いますが、紀元前600年ぐらいに孟子という人が「王道があり、覇道があり」という国家観を示しました。王の道と覇者の道の二つがしっかりそろっている時に国がまとまる。つまり「王道はこれを犯さざる、犯されざるもの」ということです。覇道は、その時の覇者がまつりごとをやればいい。王道は、王が民のための祈祷などをやればいい。そういう国家であれば、統治がしっかりすると孟子が言った。

 始皇帝以前の小さかった国家は、覇者も王もいた。始皇帝が全部それをリセットして、王道と覇道を一緒にしたんです。その後の中国の国家は、その国家が終わると、まったく違った国家ができるというのを連綿と繰り返して、今は共産党の王朝になっていると僕は見ています。

 王道と覇道が存在している国家観を継承したのは日本なんです。天皇家が連綿とあって、その下で覇者がいて、国が乱れたら秩序の中心に天皇がいるっていうことを繰り返している。

 -その王道と覇道という捉え方は面白い。

 北方 戦乱の時代は、最後は帝みかどを擁立して、「俺が正しい覇者だ」というのですから。

 -歴史ものの創作活動で苦心していること、工夫されていることは?

 原 創作活動というところでは、数字にこだわるようにしています。売るということです。歴史ものとしては、いろいろとテーマを持って描いてはいますが、何よりエンターテインメントを第一とするところ。歴史教科書を書いているわけではないので、面白くなくてはいけないと思っています。

 そのために、僕は敵側のドラマもしっかり描きます。勝つ側と負ける側のドラマを激しくぶつけ、そして物語が結末にたどりついた時に、「中華統一とはこういうことだったのか」となるように。そこまできて歴史ものになるのかなと。

 北方 それは私の歴史小説の書き方と同じです。読み終わった時にこういう時代だったんだと分かれば、それでいいんです。

 -今は「歴女」など歴史好きな人が結構いるが、そうした人たちについてどう見ているか。

 原 従来の歴史の硬いイメージを払しょくする別視点は、歴史ものに取っかかりやすくする新しいアプローチだと思います。歴史はどの入り口から入っても、触れれば絶対に面白いですからね。

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