〈三椀(さんわん)の雑煮かゆるや長者ぶり〉。明和9(1772)年、与謝蕪村の歳旦吟(さいたんぎん・新春詠)である。正月に、家族と祝う雑煮を三椀もおかわりするとは、いかにも豪快な、富貴富徳の風格があって心豊かな趣が漂う◆芭蕉が求道者のように俳諧の世界を極めようとしたのに対し、蕪村は絵も巧みで、風流を愛した文人だった。京の盆地の小さな世界に暮らした。彼は晩婚で45歳ごろに妻をめとり、一粒種の娘を深く慈しむ◆冒頭の句は56歳ごろのものだから、家族3人、水入らずの正月の和やかな光景が見えてくる。雑煮に欠かせない餅は「ちから餅」といい、古来、不思議な力がこもっていると信じられてきた。稲作を生業(なりわい)としてきた日本民族にとり、餅はめでたさと豊かさの象徴である◆新しい年が明けた。平らかで心穏やかな一年をと願う。時の巡りはいいものだ。嫌なことがあっても、年が改まれば区切りとなり、新たな一歩を踏み出せる。小さな歩みでも、時には足踏み、いや戻り足でもいいではないか。少し顔をあげてみる◆今年は明治維新150年である。幕末維新期に輝きを見せた佐賀。過去は未来につながる。ふるさとを元気にすべく、一度立ち止まり、いかに進むかを思案する良い機会だ。清新な朝に、安寧を祈って雑煮を味わい、それぞれの行く末に思いを致す日としたい。(章)

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