環太平洋連携協定(TPP)関連法案がきょう9日、国会で成立する見通しだ。安倍政権は強引に衆院を通過させた上、会期を延長してまで今国会での承認にこだわってきたが、次期米大統領のドナルド・トランプ氏は「就任初日に脱退を通告する」と明言しており、発効は絶望的な情勢だ。

 世論を二分してきたTPPだが、あっけない結末を迎えそうだ。最大の国内総生産(GDP)を抱える米国が批准しなければ発効しないルールがあるため、与党内からも「TPPは死んだ」という声が聞こえてくる。

 安倍首相は「自由で公正な貿易投資ルールをけん引する」と、いまだにトランプ氏の心変わりに期待しているようだが、どれほどの見込みがあるというのか。トランプ氏とニューヨークで面会した安倍首相は「信頼できる指導者」と持ち上げ、アルゼンチンの会見で「TPPは米国抜きでは意味がない」とまで言い切ったが、その首相会見のわずか1時間後、トランプ氏はビデオメッセージでTPP離脱を表明している。

 ここはトランプ氏の判断を冷静に受け止めるしかない。

 今後、日本にはいくつかの選択肢が考えられる。ニュージーランドなどからは、米国を除いた11カ国だけで発効させるという案が浮上している。まずは米国抜きで先行させ、実績を重ねながら将来的に米国へ参加を働きかけようというわけだ。

 だが、米国抜きでも日本にとって利益につながるのか、慎重に見極める必要がある。石原伸晃経済再生担当相は米国抜きの経済効果は「目安としてだが、半分程度になってしまうと考えて差し支えない」と答弁している。これまでの政府の試算ではTPPの経済効果は国内総生産(GDP)を14兆円拡大させるとしてきた。半分では7兆円規模にとどまる。

 貿易立国である日本にとってTPPのメリットは、米国の巨大市場が開かれればこそだろう。最大の輸出先と想定してきた米国抜きでは、一部の農産物を差し出してまで歩み寄った意味は薄れる。

 もうひとつの選択肢は、TPPの合意をベースに、改めて加盟各国と個別に交渉して、2国間FTA(自由貿易協定)を結んでいくという案である。

 今の時点でトランプ氏の経済戦略ははっきりしないが、「TPPの代わりに2国間交渉を進める」と述べている。ただ、TPPで日本は、米国の要求に応じて農産品の関税などで大幅な譲歩を強いられた。この上、2国間交渉となれば、さらなる譲歩を迫られるのは必至だろう。

 また、カナダ、ニュージーランドを除く8カ国とはすでにFTAを結んでおり、2国間交渉はTPPの代替案になりそうもない。

 TPPには各国が「自由貿易」の旗の下で結びつきを強めて、台頭する中国をけん制する狙いも込められていた。米国がこの枠組みから抜けることで、日本の外交戦略が見直しを迫られることも指摘しておきたい。

 TPPを軸にしたシナリオが大きく崩れた以上、抜本的な立て直しを急ぐ必要がある。政府はTPPはいったん脇に置いて、経済、外交ともに新たな戦略へと踏み出すべきではないだろうか。(古賀史生)

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