〈天の海に 雲の波立ち 月の舟 星の林に 漕(こ)ぎ隠る見ゆ〉。日本最古の歌集『万葉集』に収められた、柿本人麻呂(かきのもとのひとまろ)の歌である。数多い叙景歌の中でも出色の一首◆広い広い天の海。浮かぶ雲は、白波のようだ。月の船が渡り、星の林の中に隠れてゆく―。月の船とは、何とも詩人の豊かな想像力だ。三日月のツンととがった先が、船の舳先(へさき)に見えたのだろう◆夜空を見上げると、浮かんで見える月。新たに米国が発表した月への有人飛行計画に、日本政府も参加を検討するという。日本人が月面へ、となるかはまだ明らかではないが、心躍る話である。先日、国際宇宙ステーション(ISS)に到着した金井宣茂さんを含め、日本の宇宙飛行士は13人誕生した◆2024年までの運用が決まっているISS。後を見越しての試みとなる。その先に、月に降り立つ日本人の姿をぜひ見たい。宇宙探査に欠かせない国として技術で貢献し、世知辛いが、予算も裏付けとなろう。まだまだ月は遠いのである◆芭蕉の名句に〈名月や池をめぐりて夜もすがら〉がある。月を眺めながら池の周りを歩いていたら、いつの間にか夜が明けてしまった―。ぼんやり眺めていた宇宙を、ビジネスにつなげる現代である。お月さまで、ウサギが餅つき。月に日本人がいても、そう思える心も失いたくはないものだ。(章)

このエントリーをはてなブックマークに追加