明治維新後の佐賀を揺るがした「佐賀の乱(佐賀戦争)」では、反乱に加わる者と、政府側につく者に分かれたが、実は第3のグループがあったという◆「政府に反発しているが、反乱を起こすことにも賛同できないという、いわば良識派」である。先週、亡くなった作家の葉室麟さん=北九州市出身=が、2012年に直木賞を受賞して本紙に寄せた原稿で、母方の先祖が佐賀藩士だったと明かしていた◆葉室さんの先祖は良識派で、鎮圧後は双方から憎まれて袋だたきにあったという。「良識があり、生真面目なのだが、どこか不器用で最後には貧乏クジを引いてしまう」「いかにもわたしの先祖らしいな」と葉室さんはつづる◆直木賞受賞作『蜩(ひぐらし)ノ記』に登場するのも、そんな貧乏クジの男たちである。あらぬ疑いをかけられ、10年後の切腹を命じられながら、言い訳ひとつ口にせず淡々と受け入れる元奉行の戸田秋谷(しゅうこく)。その監視役でありながら、清廉な人柄に引かれ、何とかして救いたいと願う青年、檀野(だんの)庄三郎。残酷な運命がふたりを襲う◆「貧乏クジを引いているとわかっていても、黙々と働き続けるひとびとによってこの社会が支えられ成り立っている」-。組織の論理に翻弄(ほんろう)されながらも、誇り高く生きようとする人々。葉室さんが描いたのは、現代にも通じる庶民の姿である。(史)

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