トランプ米大統領が初めて発表した国家安全保障戦略は、選挙公約である「米国第一主義」を安全保障にも最重要原則として持ち込んだ。世界の平和、自由、民主主義、福祉をけん引するといった米国の理念を捨て、軍事力による露骨な覇権維持の意図を明確にしたものといえる。

 中国やロシアなどが力を前面に押し出し国益の増強を図る現実があるとはいえ、これでは米国の理念に共感していた世界の国々や人々は違和感を持つ。米国は常に国家間競争を超越した存在であると自負してきたが、単なる大国の一つに自ら格を下げ、かえって国益が損なわれるだろう。

 同盟国にも「脅威に対抗するために、貢献しなければならない」と負担増を求める意向を示した。だが、中国やロシアを競争相手、イランを地域秩序の破壊者としてみなしており、日本が全面的に賛同できる性格ではない。日本は米国との安全保障関係と同時に、東アジア地域にあるさまざまな国と外交・安保関係を強化していくべきだ。

 国家安全保障戦略は、「世界史の常は力を求める競争である」として、「関与政策が相手を信頼できるパートナーに変えるという前提は間違いだった」と明言した。グローバル化が平和をもたらすという冷戦後の基調を否定したわけである。

 また、安全保障戦略の最初の目標に「米国民、米本土、米国流の生活を守る」を挙げ、「米国第一主義」を単なる選挙公約ではなく、政権の内外政の看板である「ドクトリン」として位置付けた形である。一方で、過去の米政権は同盟国防衛の義務も強調したが、今回はその印象が薄まった。

 そして米経済の復活を目標の一つとして、「不公平」貿易是正や相互平等主義の2国間経済関係を唱えた。安全保障と貿易を統合すれば、国民の生活感情で安保政策が左右され、対外政策がポピュリズムに陥る恐れがあるとの指摘も無視された。

 国連など国際機関との関係も、米国を支持し強化するかどうかで選択的に協力すると宣言している。エルサレムの首都認定問題で米国を批判した国連加盟国に援助削減の圧力をかけ、「反イスラエル」を理由に国連教育科学文化機関(ユネスコ)を脱退したのは、そうした戦略の表れだ。

 「力による平和」をうたうこの安保戦略の最大の問題は、中国の経済・軍事面での拡大やロシアの拡張的な行動が目立つ世界で、相対的に国力を落としている米国が、「力」を誇示しようとしても実態が伴わない上に、軍事的な緊張が高まる結果が予想されることだ。むしろ米国の強みである理念が後退したことで、米国の底力の低下に結び付くのではないか。

 日本にとって大きな課題である北朝鮮情勢にしても、軍事力を振りかざす圧力路線だけでは解決は難しい。影響力を持つ中国やロシアが足並みをそろえるような環境を米国がつくれるかどうかが、鍵となる。今回の安保戦略とは異なる繊細な外交が肝心なのだ。

 トランプ政権の一国主義安保戦略は、今の米国の政治、経済、世論の余裕のなさを反映したものであろう。今後短期間で理念重視に戻るとは思えない。複雑化するアジアで米国の力だけに頼るのは危うい。日本は中国、ロシア、韓国、東南アジアなど近隣国との関係を深める必要がある。

                                 (共同通信・杉田弘毅)

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