「年々海は追い込まれている」と話す平方宣清さん=藤津郡太良町大浦の道越漁港

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡って堤防排水門の開門を命じた福岡高裁判決が確定してから21日で7年となる。国は長崎県側の反対を理由に履行せず、今年4月には開門しない方針を明確にした。関連訴訟で国は「勝訴原告の半数以上は漁協の組合員資格がない」と主張して対決姿勢を鮮明にし、原告弁護団は「開門を引き延ばし漁業者が苦境に陥っている」と反発する。混迷が深まる中、開門をしない国に科された制裁金は10億円を超えた。

 福岡高裁で審理中の制裁金に関する訴訟で国は11月下旬、新たな書面を提出した。確定判決後、勝訴原告の一部は漁業を全く営んでいなかったり、漁業日数を裏付ける資料がなかったりして「組合員の資格要件を欠く」と指摘し、開門請求の根拠となる漁業行使権が認められないと主張している。原告51人のうち該当者は半数以上で、農林水産省の担当者は「こんなに多かったとは」と驚きを示す。

 国は直近の2015年度の売上伝票や漁業日誌などの提出を漁協に依頼するよう3月に高裁に申し立て、8月に採用された。入手した資料で組合員の資格の有無を調べ、国側は「開門請求や間接強制金(制裁金)を支払っている基礎が漁業行使権なので、しっかりした形で漁業実態を確認する必要があった」とする。訴訟の進行状況に応じ、資格がない人への制裁金の返還請求も視野に入れる。

 原告弁護団は国の動きに対し、「確定判決で認定された漁業行使権の判断の蒸し返しだ」「文書だけで資格の有無は判断できない」などと批判してきた。来年2月の次回審理までに反論の書面を提出する方針。堀良一弁護団事務局長は「国は開門しないことで漁業に影響はないとしながら、被害が続いて漁業が営めなくなっていることを自ら認めているようなもの。自己矛盾だ」と指摘する。

 原告漁業者の藤津郡太良町の平方宣清さん(65)は、1997年の堤防閉め切りから続く高級二枚貝のタイラギなどの不漁によって生活が年々厳しくなっていることを痛感する。約400人いた地元の漁業者は年々減り続けて半数になり、後継者もいなくて高齢化が進行する。

 確定判決を機に、漁場の回復の期待から潜水士の免許を持つ息子が漁業を継ぐ意志を示したが、開門しないため地元へ戻れない状況が続く。訴訟で国は500ページに及ぶ書面を追加した。平方さんは「港湾工事の出稼ぎなどやむを得ず漁業を離れている人も多い。海が復活すれば漁業も再開できるのに国は開門や裁判を引き延ばし、疲弊させようとしている」と声を落とす。

 開門義務を果たさない国が原告側に毎月支払い続ける制裁金は12月で10億1250万円になった。開門関連訴訟で長崎地裁は4月に開門を認めない判決を言い渡し、国は控訴せずに開門しない方針へ転換した。来年2月以降、福岡高裁で和解協議を再開する動きが出てきたが、開門の前提条件が異なる国と原告弁護団との間で再び平行線をたどることも予想される。

 斎藤健農相は8日の記者会見で「間接強制金を支払わざるを得ない状況は非常に残念。開門によらない基金による和解について理解と協力が得られるよう一層努力したい」と述べた。馬奈木昭雄弁護団長は「開門は国が判決を受け入れて約束をしたこと。政権が代わって簡単に反古(ほご)にしたら、政治に対する信頼は守られない」と批判する。

 ■福岡高裁開門確定判決 有明海の沿岸4県の漁業者が提起した諫早湾干拓事業の開門訴訟で、福岡高裁は2010年12月6日、堤防閉め切りと漁業被害の因果関係を認めて5年間の常時開門を命じる判決を言い渡した。菅直人首相(当時)は上告断念を表明し、同21日に判決が確定した。

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