2018年度税制改正の大綱がまとまった。働き方の多様化に応じ、年収850万円超の会社員を増税、高額所得の高齢者にも負担増を求め、フリーなどで働く人らの負担を軽減する。法人税減税で企業に賃上げや設備投資を促し、所得増や消費拡大も目指す。

 安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」を後押しし、デフレ脱却につなげたい思惑があるようだが小手先の修正に終始した感は否めない。この国の将来を展望した税制のグランドデザインが見えてこない。

 納税額を上下する基準として活用したのは既存の控除制度だ。具体的には高所得会社員の増税に向けて給与所得控除額を下げ、フリーで働く人の減税のためには基礎控除額を増やした。高所得の年金受給者の増税には年金控除額を減らした。

 確かに狙った所得層で負担の増減は生じるが、課税対象所得を減らす所得控除を採用したため、高所得層の優位性は残ったままだ。所得にかかわらず軽減額を一律とする税額控除の活用の必要性が指摘されていたが検討されなかった。

 働き方改革に税制も合わせるというのなら、専業主婦世帯を優遇した配偶者控除も抜本的な見直しが必要だが、手つかずのままだった。

 法人減税も3年間の限定で恒久減税ではない。今は米国などの海外需要が旺盛で事業拡大が続いているが、いずれ調整局面はくる。減税の恩恵が一時期に限られるとすれば、いったん決めたら長期的なコスト増につながる賃上げや設備投資に踏み切る決断はそう簡単ではない。

 新税も創設された。観光政策の財源確保のため、出国に際して1人当たり千円を課税する国際観光旅客税と、森林保全のための費用を、個人住民税に上乗せして徴収する森林環境税だ。首相官邸からの圧力があったと指摘されているが、いずれも必要性や効果などを厳密に検証していない。改正原案を作成する自民党税制調査会の力が落ちて、税制がゆがんでいるとしたら問題だ。

 かつて党税調は首相や党幹部らの影響を排して税制の在り方を追求したが、今回は力を失ったことを示す象徴的な事態があった。

 所得税改正で増税となる年収ラインは800万円超で決着していたが、大綱とりまとめ直前に、官邸から横やりが入り850万円超に引き上げられた。連立相手である公明党の影響も指摘されている。

 どちらが妥当だという議論はここではしないが、党税調が議論を重ねた末に打ち出した800万円超というラインが、いとも簡単に突破されてしまった。いくら議論をしても官邸からの一声でひっくり返されてしまっては、一体、何のための党税調だということになってしまう。

 格差是正のための所得再配分にしろ、経済活性化のための法人税減税にしろ、抜本的な改革に踏み込まずに中途半端に終わったと言わざるを得ない。

 経済活力を保って税収を上げるには課税ベースの拡大が不可欠。そのためには自営業者や農業者などの所得のより正確な捕捉が必要だ。税収安定には景気に左右される所得税などの直接税の比率を下げ、消費税などの間接税の比率を上げなければならない。課題は山積したままだ。(共同通信・高山一郎)

このエントリーをはてなブックマークに追加