神奈川県にある厚木基地の騒音訴訟で、最高裁は住民側が求めた自衛隊機の飛行差し止めを退けた。一審と二審が認めた深夜と早朝の訓練飛行差し止めを否定する判決文で、静かな空と暮らしを願う住民の願いは「国防は高度な公益」という司法判断の前に届かなかった。

 テレビや電話の音さえ聞きづらいほどの騒音に長年苦しんだ住民からすれば、最高裁判決は大きな後退にみえるだろう。「周辺海域への警戒任務や国際貢献などは高度の公共性、公益性がある。訓練のための運航も平素から必要で、夜間訓練も同じ」と国防のためには、24時間の運航も容認する内容だった。

 一方で、騒音被害そのものは「精神的な苦痛を継続的に受け、睡眠妨害は深刻で軽視できない」と住民の訴えを認めており、国に賠償金の支払いを命じている。

 これまでも厚木に加え、横田(東京)、小松(石川県)、嘉手納と普天間(沖縄県)の五つの基地で計321億円の損害賠償が確定しており、その司法判断の流れと言えるだろう。

 しかし、被害は認めながら、騒音の原因である軍用機の訓練飛行は「高度な公益」と運航継続を容認し、賠償金という金銭的な解決策だけを提示している。騒音被害を感じれば、そのたびに訴訟を起こせばいいというような内容だが、問題解決の道筋をつけるように国に促せなかったのか。

 厚木基地の場合、自衛隊機よりも米軍機の方が圧倒的に飛行回数は多い。裁判所は国内法の範囲外にある米軍機の飛行差し止めについては一審から審理していない。日米安全保障条約の枠組みの中、司法の限界をさらけ出しているようにも見える。

 2017年には厚木基地の米軍艦載機が山口県の岩国基地に移駐するという計画がある。これが実現すれば、騒音問題も一定程度、改善するという見通しもある。

 ただ、厚木からの米軍機移駐を岩国の市民が歓迎するはずもない。岩国基地でも騒音訴訟は続いており、さらに問題が深刻になることが予想される。首都圏の厚木から地方への基地問題のたらい回しにすぎず、抜本的な解決というにはほど遠い。

 佐賀県も今、基地問題に直面している。佐賀空港への自衛隊機オスプレイ配備の是非について、山口祥義知事は最終判断の時期も含め熟慮を続けている。

 国が持ち出す大義名分は、基地が集中する沖縄県の負担軽減であり、本土での分かち合いだ。防衛省は佐賀県との交渉で、自衛隊機が深夜と早朝に運航することはないと強調するが、米軍が訓練で佐賀空港を利用するか否かについては、あいまいなままだ。

 米軍は国内法が及ばない存在で、要求が通りにくいことは一連の騒音訴訟でも明らかになったはず。自衛隊機も最高裁判決で夜間訓練が容認された形となった。オスプレイもいったん配備されれば、運用が防衛省の広い裁量に委ねられることにならないか。

 厚木の住民が最初に騒音被害を提訴したのが1976年で、今年で40年になる。基地問題はそれだけ時間がかかる問題でもある。国民の暮らしを妨げないような配慮がなければ、国防への信頼は生まれない。(日高勉)

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