拙速なTPP国内承認や小農切り捨ての農業改革に異議を唱える農民作家の山下惣一さん=唐津市湊

■「もうかる農業」続かない

 トランプ次期米大統領が脱退を明言する中、環太平洋連携協定(TPP)承認・関連法が国会で成立した。「TPPに反対する人々の運動」共同代表として草の根運動を展開する唐津市の農民作家・山下惣一氏(80)は佐賀新聞社のインタビューに、政府、与党が国内承認を急いだことに対し「早まったことをした」と批判した。農産物の海外輸出や「もうかる農業」への転換を掲げる一連の農業改革についても、「もうけ主義の農業にこそ持続可能性はない」と断じた。

 -米大統領選でトランプ氏が勝利し、TPP脱退を表明する中、国内承認を急ぐ形になった。

 グローバリゼーションの旗手だった米国民が「こんな国はいやだ」と言ったんだから驚いた。承認を急いだことで仮に今後、日米でのFTA(自由貿易協定)を持ち掛けられた場合、TPPで譲歩したラインが交渉のスタートになる。条件は悪くしかならない。

 -TPPと同時に、農業の成長産業化を目指して国が改革を主導してきた。

 農家の高齢化や耕作放棄地が増えている現状を何とかしようと考えるのではなく、それを理由に今頑張っている零細農家を退場させて、企業や大規模な法人に選手交代って言うんだからひどい話だ。「ピンチはチャンス」と言えば問題がなくなるように見えるが、ピンチはピンチ。小農が地域社会を支えているという視点が抜け落ちている。

 -改革急進派は「もうかる農業」の必要性を説く。

 いつの時代に農家がもうかったのか(笑)。もうかったから農業が続いたんじゃなくて必要だから長く続いてきたわけで。そもそも農業にもうかるという発想はない。頂くものは労働の対価、多く収穫できたときは「よかった」と。彼らは「農業は持続可能性を失っている」と言うが、もうけ主義の農業こそ持続可能性はないんじゃないの。

 -TPPの頓挫で規制改革推進会議が「農協改革」の議論を再燃させた。

 農協は自民党との蜜月の中で国の農政を言う通りに下請けしてきた存在。これまでの数々の失敗を農協にすべて押し付けているだけだ。安倍首相らも「岩盤規制をドリルで壊す」と言うが、本来規制は弱い者を守るためにあるはず。政治が強者の方に立ってどうするんだと思う。

 -今後農家はどうなるだろうか。

 仲間内では「自衛農業」なんて言っているが、今いる農家は自分や地域の人が食べていく分だけ作るようになってしぶとく生き残るかも。その後は大変だ。集落に大規模農家が1軒あるだけでは、水路の管理やあぜ道の草刈りまで手が回らない。効率の悪い小さな農家がたくさんいるほうが、逆に効率的な面もある。

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