きょうは二十四節気の「大雪(たいせつ)」。天地の陽気がふさがり、真冬に入っていくころ。本格的に雪が降る季節となり、佐賀でも初雪が見られたばかりだ◆こう寒いと、鍋料理が恋しくなる。手軽なのは湯豆腐。ぐつぐつ煮える豆腐をほおばれば、体がしんから温まる。昔の江戸の町は独身の男が少なくなかったので、一人暮らしの知恵から生まれた「小鍋立て」が人気だった◆湯豆腐は冬の季語で、庶民の味わいを昔から俳句に詠んだ。〈湯豆腐やいのちのはてのうすあかり〉。久保田万太郎、生涯の名句といわれている。湯豆腐だから、一人で居酒屋か。そこに自らの境涯を重ねて…◆小説家、劇作家の万太郎は明治22年、東京・浅草の袋物製造業の家に生まれた。職人の家だからだろう、市井の義理や人情を情緒豊かに描いて、ちょっとほかにない味わいの作品ばかりである。俳句は余技だが、日記のように句作し精妙を極めている。しかし、私生活では放縦に流れ、文化勲章まで受賞しながら幸薄かった◆妻子を失い、晩年ようやく思い定めた女性に出会う。が、彼女は突然の病で不帰の人となる。〈湯豆腐や…〉は、その時に詠んだものだ。この3カ月後に万太郎自身も不慮の死を遂げる。そこまで知れば、名句も切ない。作家の人生を絞ってしたたる、しずくのようにも思えるからである。(章)

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