首相官邸が打ち出す政策を与党がチェックせず、国会も事実上の追認機関になりかねない状況に陥りつつある。

 与党内の議論を経ないトップダウンの政策決定が目立つ一方、国会審議について自民党が自分たちの質問時間を増やし、野党持ち分の削減を図っているからだ。

 背景には安倍晋三首相が政権復帰した2012年の衆院選以来の国政選挙で、5連続の大勝を収めたことがある。しかし、与党内でも、国会でも精査が十分働かず、不備を抱えた政策が展開されれば不利益を被るのは国民だ。野放図な官邸主導を許してはならない。

 官邸トップダウンの政策決定で象徴的なのは、看板政策「人づくり革命」の財源確保。安倍首相は10月末に開かれた有識者会議で、経団連の榊原定征会長に対して3千億円の拠出を直接要請した。

 拠出金は、待機児童解消に向けた保育所整備に充てられる方向で、児童手当など子育て支援を目的に企業が既に負担している「事業主拠出金」を拡充する形で行われる。榊原氏は協力する意向を示したが、与党内では議論されていなかった。

 そもそも自民党は、企業に加え従業員も負担する仕組みとして検討した「こども保険」創設を提言。首相官邸側は、賃上げが不十分な中で家計に負担を求めるのは難しいと判断したとみられるが、企業のみの拠出で代替することに自民党の了承は得ていなかった。

 これに対して「こども保険」を提唱した小泉進次郎筆頭副幹事長が「全く党で議論していない。このままだったら自民党は必要ない」と強く反発、岸田文雄政調会長が党内議論を尊重するよう官邸に求めることで沈静化を図ったが、「官高党低」構図に変わりはない。

 その証左が、外国人旅行者や日本人が出国する際に徴収する「観光促進税」、いわゆる「出国税」の検討過程だ。現在、自民党税制調査会で事実上、検討が始まっているが、新税構想は菅義偉官房長官が提唱して今年夏ごろから取りざたされ始め、観光庁の有識者会議は、わずか2カ月の議論で概要が固まった。

 党税調はこれを追認する形になっているが、これまで税に関する重要事項は、「インナー」と呼ばれる党税調幹部が主導し、取りまとめてきた。今回の経緯はその逆の流れなのだ。首相官邸が、安倍首相の意向を尊重する宮沢洋一氏を税調会長に充てたことが大きい。

 トップ人事による首相官邸主導の強化は、政権発足直後、金融緩和論者であるアジア開発銀行総裁の黒田東彦氏を日銀総裁に充てた件に始まり、集団的自衛権の行使を容認するための憲法解釈見直しに前向きだった駐フランス大使の小松一郎氏の内閣法制局長官起用など枚挙にいとまがない。

 首をかしげざるを得ないのは首相官邸に対して影響力を失いつつある自民党の対応である。本来であれば、小泉氏のように議論活性化を求めて、激しい駆け引きを繰り広げても良さそうだが、その気配はない。

 出てきたのが、国会での与党質問の時間増要求である。政府の政策や法案の内容を修正できる与党内議論の縮小は黙認し、党議拘束によって字句の修正さえ難しい国会での審議を求めるというのは理解に苦しむ。仮に野党の質問時間削減が目的だとしたら自ら国会の役割を放棄する愚挙である。(共同通信・柿崎明二)

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