コメディアンの小松政夫さんが、ある葬儀に出席すると、故人の奥さんが妙に明るい。火葬場でも「こんがり焼かれて、楽しく逝きますよ」と冗談を飛ばすほど◆ところが、気丈に振る舞う彼女が「奥さん、喉仏を」と促されて、箸をつかんだ瞬間、手が大きく震えだし、みるみる体全体が大きく揺れ出す。独りで立っていられない。「居合わせた人がみんな堰(せき)を切ったように泣き出しました」◆俳優でもある小松さんは「悲しさを表現するのに、涙を流せばいいというもんじゃない。リアルな人間の振る舞いはそんなに単純なものではありません」と、自著『昭和と師弟愛』につづっている。昭和の大スター植木等の付き人から始まって、鋭い観察眼を芸に生かしてきた小松さんらしい感慨である◆先月末、私も義理の祖母を送った。最後に見舞った病院で別れ際、なんとなく手を握ると、ぐったりしていたのに、思いがけず強い力で握り返してくれ、口元がかすかに「ありがとう」と動いた。火葬場で骨を拾う時、あの右手の指が私に回ってきた。竹の箸でつまむと、あまりにも軽く、あまりにももろく思えて、そっと次に渡した◆喪中はがきが、ぽつりぽつりと届く。周囲を気遣い、あふれそうな感情を懸命に抑え込んできた人もいよう。短い文面に悲しみがにじむ。また、年が暮れてゆく。(史)

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