漏水対策の補修工事のため来年2月予定の開業を5月以降に延期した温泉保養宿泊施設「タクア」=多久市北多久町

 18億円を投じて改修し、過疎の町の雇用促進や地域活性化の期待がかかった温泉保養宿泊施設「タクア」(旧「ゆうらく」、多久市北多久町)が、開業の見通しが立たない事態に陥っている。施設改修の財源を自治体が確保し、経営ノウハウを持つ民間企業が運営する「公設民営」により大きく歩み出すはずだったが、運営方針の変更や改修後の漏水発覚で足踏み。補修工事など公費投入を重ねる巨大施設の「再生」は迷走している。

 旧ゆうらくは2006年8月に閉館後、神奈川県のリラクセーション施設運営会社に売却、07年3月に再開したものの、わずか半年で閉じた。多久市が12年、競売物件として施設と敷地約10万5千平方メートルを7884万円で買収した。

 「旧ゆうらくの再生事業は三つの偶然が重なり動き出した」。ある市職員は解説する。地元自治会から毎年のように施設の利活用を求める声が上がり、その間に市幹部が、嬉野市の温泉ホテルを立て直した支配人と懇意になり、旧ゆうらくの件を持ち掛けたという。

 決定打は「安倍政権が進める地方創生の総合戦略事業として改修費全額を、将来、国への返済が3割で済む過疎債で賄えるようになった」(市職員)という。

 昨年5月、3社が参加した公募型プロポーザルでは支配人が在籍する産廃業の長崎環境美化(長崎市)が10年間の貸借権を得た。長崎市やハウステンボスへの観光ルート上の大規模な昼食会場と位置付け、有名なフランス料理シェフが考案するメニューで団体客を誘い込む提案だった。

 「前回は温泉に頼り切り、高い入場料金で客足が落ちただけに、食で集客を図るプランに新鮮さを感じた」と選定委員の一人。「今度こそうまくいく」と期待したという。

 改修工事は昨秋始まり、今年4月に運営会社「タクア」を設立、支配人が社長に就いた。しかし、7月ごろ、病気を理由に支配人は経営から離れ、社長には親会社の元幹部が就任した。

 異変はその後始まる。改修工事がほぼ終了し、施設の引き渡しを間近に控えた9月下旬の市定例会見。同席したタクアの経営幹部はフランス料理シェフの契約を解消、長崎県内の老舗旅館の料理長と契約し、レストランメニューを和食中心に変えると発表した。さらにインバウンド効果を狙った免税品店設置も凍結、主要事業を大転換した。

 市の課長たちは寝耳に水で驚いた。この時期、水面下では市と運営会社が8月下旬に発覚した漏水対策で協議を重ねていた。

 11月上旬、30人弱の採用内定者がそろった施設内の食堂。市の漏水対策を理由に同月からの雇用先延ばしを告げられた。説明を聞いた50代女性は、施設規模の割には少ない内定者数に疑問を抱く。「雇用できないのは漏水が原因ではなく、人材を集められず経営のめどが立たないのでは」

 漏水発覚以降、運営会社は「温泉で集客する以上、本格的な補修工事をしない限り開業できない」と市に通告。ある市職員は「12月に宴会だけ営業するなら、漏水の対策工事とは関係ないはずだが」と漏らす。

 市は約1億4900万円をかけ来年4月下旬までの補修工事に着手。タクア側は「温泉での収益見通しが立たない」と採用者全員の内定を取り消し、「開業は未定」とした。その上で、工期中の補償費として人件費や光熱費など数千万円を市側に要求している。

 「タクア」再生は、地域の雇用創出を名目に18億円の過疎債を充てている。市職員は嘆息する。「採用内定が取り消され、運営事業者が撤退して事業不履行となれば、真水(18億円)を国に返還しなければならない。財政力の乏しい多久市にはできない相談だ」

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