童話作家のアンデルセンは大人の読者を意識した傑作『影』を残している。ある日、若く清貧な学者の影が消えるが、数年後、人間の姿と地位と資産を得て自信たっぷりに学者の前に現れるという物語だ◆「影」は自分が主人のように振る舞い、学者に次々と指示する。婚約者の王女にも学者が自分の影であると紹介する。影が本人を超える-。執務室にこもり、人との接触が少ない朴槿恵(パククネ)韓国大統領と、彼女の名前を利用して権勢をふるった親友崔順実(チェスンシル)被告の関係にどこか通じるものを感じる◆朴大統領は親友の不正蓄財がきっかけで弾劾訴追案が可決し、職務停止に追い込まれた。親友の罪も大きいが、「影」の存在だった親友を野放しにした大統領が最も責められるべきだろう。初の女性大統領として国民の期待は大きかったが、結局は歴代大統領と同じように不正事件で裏切ることになった◆『影』はさまざまな解釈ができる作品でもある。「影」は世俗にまみれた学者の本当の姿で、清貧な「本人」が彼に残った最後の良心のようにも読める。物語の最後では「影」が「本人」の存在を邪魔に感じる◆朴大統領自身も巨大な権力を手にしたことで最初に掲げた理想を見失ったのではないのか。大統領の職をかけた憲法裁判所が開かれる。最後の良心をかけ、国民と向き合ってほしい。(日)

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