言葉は時代とともに変わる。それを実感させるのが、日本の代表的な辞典「広辞苑」の改訂版だ。10年ぶりの改訂で来年1月に刊行されるが、新しい言葉は約1万項目にのぼるという。一方で、消え去っていった言葉、新たな語義が加わった言葉もある。新語や流行語大賞が話題になるこの時期、言葉の変遷を通し、今という時代を見つめたい。

 新しい広辞苑(第7版)には計25万語が並ぶ。「日本語として定着した語、または定着すると考えられる言葉を厳選した」(岩波書店)という。その言葉を見ていくと、インターネットの伸長に伴う言葉や若者言葉が目につく。

 ネット・IT用語では、「アプリ」「クラウド」「フリック」などがある。「フリック」は「タッチパネルで指を素早く動かしたり、はじいたりすること」というような意味だが、聞き慣れず、戸惑う世代もいるかもしれない。また、「がっつり」「のりのり」「ちゃらい」など若い世代が使う口語も加わる。興味深いのは、時代とともに広がった語義が収録されていることだ。例えば、「盛る」の説明に「おおげさにする」、「やばい」の説明に「のめり込みそうである」を追加している。

 一方で、収録候補になったものの見送られた言葉もある。「がん見」「TPP」「ほぼほぼ」などがそれだ。特に、「ほぼ」を重ねて強調した「ほぼほぼ」は、辞書出版の三省堂が昨年末、「その年を代表する言葉」として「新語2016」の大賞に選出、「日常の言葉として定着した」としていたが、広辞苑では判断が異なった。

 広辞苑は、国語辞典と百科事典の性格を併せ持つ。今回の改訂では、震災・原発関連として「東日本大震災」「安全神話」といった言葉のほかに、地名では「浜通り」(福島県)も加えられた。東日本大震災以降、地震を伝えるニュースのテロップなどで今もしばしば見られるだけに、なんとも複雑な気持ちにさせられる。

 作家の重松清氏は、今月初めに共同通信社で行った講演で、言葉について次のような話をした。例えば「ふくしま」という言葉は、漢字やカタカナ、ローマ字で表記すると、イメージされるものがまったく違うことが、グーグルで検索した画像で分かるという。漢字の「福島」は行政としてのイメージが前面に出るが、カタカナの「フクシマ」は震災から6年たっても原発事故のイメージがまず出てくる。ローマ字の「FUKUSHIMA」はもっと生々しい―と。

 さらに、前述した「盛る」という言葉に、新しい語義が収録されたことを例にしながら、「言葉は広がったり、狭まったり、特定のニュアンスで語られることもある。そこが言葉の難しさでもある」と指摘した。

 SNSなどの活用で、個人が公の場に言葉を発信する機会が確実に増えている。岩波新書が最近行った「日本語力」調査では、日本人の約9割が、正しい日本語・美しい日本語を「身につけたい」と望んでいるという。そこで、何を使って学びたいかとの問いには、「書籍を読む」「新聞を読む」「辞書を引く」を上位にあげている。インターネットで何でも調べる時代ではあっても、「紙の力」が支持されていることは興味深い。(丸田康循)

 

このエントリーをはてなブックマークに追加