姻族関係終了届

◆家制度の縛りから放れ 同じ墓、介護に抵抗感 

 配偶者との死別後、その親きょうだいとの関係を書類だけで解消する「姻族関係終了届」を出す人が増えている。義理の親の介護を担うことや同じ墓に入ることに抵抗感がある女性から、専門家への相談が目立つ。そもそも法的な扶養義務はなく形式的な意味合いが強いが、「絶縁」できる届け出は、昔ながらの家制度に心のどこかで縛られる女性たちの安心材料になっている。

 40代のライター椙原繭実さんは1年半前、軽い足取りで市役所を後にした。3年前に病死した夫の親族との姻族関係終了届を提出し、「ようやくあの家と絶縁できる」と晴れ晴れとした気持ちになった。

 ひと回り年上の夫と17年前に結婚し、子どもにも恵まれたが、二世帯同居の夫の両親と折り合いが悪かった。

 慢性疾患があった夫が急死すると、葬儀や相続を巡り意見が対立、最後は家を追われた。椙原さんは「夫の死のショックに加えて、生活まで脅かされた」と振り返る。

 見かねた友人から「気持ちの整理になるから」と渡されたのが、見慣れぬ姻族関係終了届。椙原さんは、書類を出す日を心の支えに相続の手続きなどを進めた。「戸籍上も赤の他人だと思ったら憎しみもなくなり、前向きになれた」

 配偶者が死亡しても、法律上、配偶者の親族との関係は消えない。解消したい時は、市区町村に届け出れば認められる。相手の了解は不要で通知も行かず、配偶者の遺産を相続することも可能だ。法務省の戸籍統計によると、姻族関係終了届の提出数は2005年度が1772件だったが、年々増加傾向で、15年度には2783件となった。

 家族・夫婦問題カウンセラーの高草木陽光さんの元には、今年に入り約30件の相談が寄せられた。これまでは年1~2件だったが、ネットなどで話題となったこともあり増加。相談者のほとんどが40~50代の女性だ。

 多くは義理の親と同居や近居で、全国から相談がある。「介護に巻き込まれたくない」「しゅうとめと折り合いが悪かったので縁を切りたい」という内容が多い。中には「夫と一緒の墓は嫌」と、夫が生きているうちから「死後離婚」を希望するケースもあるという。高草木さんは「親は『嫁に面倒を見てもらうのは当然』と思うが、嫁は『夫の死後は自分の人生を歩みたい』と葛藤している」と指摘する。

 戦前の民法では、夫の死後は再婚などで籍を抜いた場合しか夫の親族との関係を切ることができなかった。戦後は個人の意思を尊重するため、今の形になった。

 民法730条には「同居の親族は互いに扶(たす)け合わなければならない」との条文があるが、扶養義務はない。大阪大の床谷文雄教授(家族法)は「法的義務があると思い込んだ人や親類との付き合いを断ちたい人が届けを出しているのではないか」と指摘。「戦後世代が増え、夫の家や血族との関係を重視する意識が薄れている」と分析する。【共同】

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