安倍晋三首相の所信表明演説に対する各党代表質問が行われ、第4次安倍内閣発足後初めての本格的な論戦が始まった。

 衆院選での民進党の分裂で野党は小党に細分化された。だが逆に各党の基本理念は明確になったと言える。

 立憲民主党の枝野幸男代表は「多様性を認め、支え合う社会」を訴え、立憲主義に基づいて権力を縛る方向での憲法論議を提唱した。希望の党の玉木雄一郎代表は「寛容な改革保守」を主張し、「憲法論議を正しくリードしていく」と述べた。

 一方、「ポスト安倍」候補の1人と目される自民党の岸田文雄政調会長も「持続可能性を持つ誇り高く豊かな社会」を目指すべきだと主張した。

 論戦のテーマは目指す社会像という総論から、憲法改正、教育無償化、経済・財政、外交・安保、震災復興、原発まで幅広い。首相の答弁は従来の政策の説明で、野党側の主張とすれ違いが多く、基本理念の議論に踏み込まなかったのは残念だ。政府と与野党が理念に基づく政策論議をもっと深めるよう期待したい。

 野党側の立場の違いが明確になったのは、安全保障関連法と憲法への見解だ。枝野氏は集団的自衛権行使への政府解釈を変更した安保関連法は立憲主義に反すると主張。首相が提起する、自衛隊を憲法に明記する「9条加憲案」は「立憲主義違反を事後的に追認する」ものと批判し、憲法論議では内閣の解散権制約などの議論を提起した。

 一方、玉木氏は「現実的な外交・安保政策」を主張し、安保関連法を認める立場から発動要件の厳格化を要求。改憲論議は推進するとした。ただ9条加憲案には「違和感を禁じ得ない」と述べた。

 これに対して首相は安保関連法は「ベストと考える」と枝野氏に反論。改憲論議に関しては岸田氏への答弁で「国会で建設的な議論が行われ、国民の理解が深まることが重要だ」と述べた。改憲論議の加速を求める首相に対し、主張が異なる野党側がどう対応するのかが今後の焦点となろう。

 逆に野党側の一致点も多かった。一つは幼児教育の無償化だ。枝野氏は「親の年収などで差をつけるべきではない」と指摘し、待機児童解消が先行すべきだと主張。玉木氏も「財源があるなら無償化よりも全入化に使うべきだ」と強調した。首相は32万人分の受け皿を整備する政府方針を説明したが、制度設計の妥当性を十分に議論すべきだ。

 学校法人・森友、加計(かけ)学園問題では、枝野氏が「適切な文書管理と徹底した情報公開」を要求、玉木氏は文書保存ルールの見直しを求めた。岸田氏も「国民に疑問の声がある以上、引き続き誠意を持って丁寧な説明をすべきだ」と言及した。首相は「丁寧な説明を積み重ねてきた」と述べたが、自民党内からの指摘を真摯(しんし)に受け止めるべきだ。

 国会での質問時間の割合を巡る与野党対立に関し、首相は「国会の中で議員としての責任を果たすべきとの指摘もある」と述べ、与党側の質問時間を増やす方針を認める考えを示した。これに対し枝野氏は「議院内閣制と国会の役割についての無理解に基づく身勝手な主張だ」と批判した。

 来週行われる衆院予算委員会に関し、与党側は与野党「5対5」の割合提案している。看過できない提案であり、国会審議の意義を再考するよう与党側に強く求めたい。(共同通信・川上高志)

このエントリーをはてなブックマークに追加