安倍晋三首相が所信表明演説に臨んだ。緊迫する北朝鮮情勢と、急速に進む少子高齢化を「国難」と位置づけ、「全身全霊を傾け、国民の負託に応える」と決意を述べた。

 衆院選で与党は、さらなる力を得た。300議席をはるかに上回り、対する野党は第1党の立憲民主党でも、わずか54議席でしかない。巨大与党だけに「数の論理」を振りかざすことなく、誠実に議論を重ねるよう、政府・与党には強く求めておきたい。

 特に、憲法改正に前のめりな首相の姿勢が気がかりだ。確かに議席数だけみれば、改憲勢力が3分の2を獲得し、環境は整ったようにも見える。だが、国民が安倍政権に期待する政策では、憲法改正の優先度はさほど高くない。

 衆院選の直後に実施した共同通信社の緊急世論調査でも、安倍内閣が優先して取り組むべき課題として、国民が挙げたのは「年金・医療・介護」が突出して多い。次いで「景気や雇用など経済政策」と「子育て・少子化対策」が続いている。暮らしに寄り添う施策を国民が求めているのが分かる。

 その意味では、新たに掲げた「生産性革命」や、「人づくり革命」は、まさに国民の期待に応える施策と言ってよさそうだ。

 だが、その中身はどうか。

 例えば、「生産性革命」は、人工知能やロボット、IoT(モノのインターネット)と目新しい言葉を並べてはいるが、いずれも省力化を進める手段にすぎない。生産性を高めた先に何があるのか、日本の産業構造をどう変えていくのか。その視点が欠けてはいないか。

 もうひとつの「人づくり革命」も物足りない。というのも、幼児教育や高等教育の無償化だけでは、これまでは家庭が負担していた教育費を、単に税金で肩代わりするにすぎない。人材育成にどうつながるのかが分かりにくい。

 具体策はこれからだろう。「革命」というネーミングにふさわしい、充実した施策を求めたい。

 アベノミクスにしても「この5年間、『改革の矢』を放ち続けた」と安倍首相は胸を張ったが、そろそろ総括が必要ではないか。確かに「3本の矢」「新3本の矢」と繰り出してはきたが、それぞれの政策がどのような成果を上げたか、検証の時期である。

 この間、日本の借金は1080兆円にまでふくらんだ。特にここ3カ月は1兆5千億円も増えており、深刻な状況だ。安倍首相は「財政健全化も確実に実現する」と述べたが、何ら対策を示してはいない。

 もうひとつ、気がかりなのはアベノミクスの「新しいエンジン」である。米国抜きの11カ国による環太平洋連携協定(TPP)や、欧州連合(EU)との経済連携協定を、安倍首相はエンジンと名付けたが、グローバル化の負の側面、とりわけ国内農業への影響を軽視してはいないか。

 週明けからは代表質問が始まる。今国会では、野党党首との党首討論が見送られるようだ。与党が求めている質問時間の見直しと相まって、国会論議が十分に深まらないのではないかと懸念する。

 安倍政権が掲げた「革命」の先に、どのような日本の未来があるのか。国会論戦を通じて明らかにしてもらいたい。(古賀史生)

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