横綱日馬富士関が10月下旬に巡業先の鳥取県内での酒席で、他の部屋の平幕貴ノ岩関に暴力を振るっていたことが明らかになった。貴ノ岩関は頭の骨を折るなどのけがをしたようだ。

 大相撲には暴力の暗い影が依然としてある、と感じたファンは多いのではないか。貴ノ岩関の師匠、貴乃花親方は鳥取県警に被害届を提出し、同県警は既に捜査に乗り出した。日馬富士関からも事情を聴くのは確実だ。まさに横綱の品格が問われる。

 その場にいた関係者らによると、日馬富士関は横綱の白鵬関、鶴竜関もいた宴会で酒に酔い、同じモンゴル出身の後輩力士である貴ノ岩関の態度が悪いと怒って、暴力を振るった。

 7年前に、初場所中にもかかわらず繁華街に繰り出し、未明に知人の一般男性に暴力を振るって、引退に追い込まれた横綱朝青龍関と同列に置くのは必ずしも適当ではないかもしれない。しかし、日本相撲協会は当然のことながら、厳しい処分で臨むことが求められる。

 相撲協会は、外部理事に就いている元名古屋高検検事長を中心とする危機管理委員会を立ち上げ、関係した力士、親方から話を聞き、問題の経緯について詳しく調査するという。しかし、なぜ問題がこのように表沙汰になる前に、協会執行部は行動を起こさなかったのか。

 日馬富士関が貴ノ岩関をしたたか殴ったようだとのうわさは、瞬く間に各部屋に伝わったという。協会幹部の耳にも入っていたはずだ。

 横綱の暴行は、協会にとって絶対に見過ごせない重大な問題だろう。どうして、すぐに当事者2人を呼び、事実確認に乗り出さなかったのか。

 9月の秋場所で優勝した東の正横綱ということで、日馬富士関を擁護する考えが協会執行部に働いたのではないかと疑われている。九州場所の初日、2日目と日馬富士関は何事もなかったように土俵に上がっていたから、ファンにすれば「あれは何だったのか」との思いに違いない。

 さらに、巡業部長という重要ポストにある貴乃花親方は警察に被害届を出すのなら、なぜ弟子の受けた被害の詳細を理事長や執行部の同僚に報告しなかったのか。暴行を公表し、協会全体で事実を確認し、対応を話し合おうと呼び掛けなかったのは、とても不思議だ。

 危機管理委は事実確認を進めるなら、理事長以下、執行部のこれまでの対応についても問題がなかったか調べてもらいたい。九州場所の直前で、興行にマイナスの影響が出ることを恐れ、内密に穏便に片付けようとした可能性は否定できないように思われる。

 相撲協会は八百長問題で興行収入の大幅減という代償を払った後、反社会的勢力からの接触を防止するための研修会は開くようになった。しかし、大相撲のイメージを傷つけ、その価値を損なう言動はどのようなものかといった倫理面の教育や研修が不十分だ。

 そのようなことは各部屋の親方任せで、との慣習はもう通用しない。緩んだたがを締め直し、法令順守の精神を全力士に浸透させることが時代の要請だ。

 事が公になってから危機管理委を発動するのではなく、問題を防止するため、違反処分を含めた倫理規定の整備に乗り出してほしい。(共同通信・竹内浩)

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