肥前いろは祭で各蔵元の酒を試飲する来場者=12日、肥前市民センター

 肥前町の諸産業に携わる人と文化団体が一堂に会する肥前いろは祭は今年で34回目。私たち杜氏組合も初回から参加している。各蔵から菰樽(こもだる)を借りてきて飾り、酒も蔵元から提供していただく。

 12日の今回は好天にも恵まれ、昨年より多い人出でにぎわった。地酒愛好家はもとより、酒造りに思い出を持つ元蔵人、家族、親族、友人など、この日ばかりは日本酒の底力を知る一日となる。

 杜氏になるのが夢だったと話された高齢の方は、子どもの頃、近くに造り酒屋があり、冬になるとどこからか男たちがやってきて酒を造る、その風景が今でも懐かしいと試飲酒をかみしめるようにおっしゃった。

 ある人は自分の親戚に杜氏が何人もいて、一人の杜氏は賃金のことで蔵元ともめたそうだ。周りの人が自分の身を守ることのほうが大事だと忠告しても聞かず、クビになった。

 自分がこうだと思ったことは曲げない。今はそういう人は少ない。

 しかし蔵元の資産を預かり、冬場半年を家族と離れて蔵に泊まり込み、蔵人の長として蔵元とのパイプ役を果たしながら、しかも造る酒の良し悪しが酒蔵の行く末を左右するとあっては命がけである。蔵人の賃金はその全ての糧となるものだ。

 最後にほのぼのとしたのは、ベテラン杜氏が新人杜氏に「この酒はいいね、よく味が出ている。この酒なら必ず売れるから、もう少し蔵出しの時によく利き酒をして、ろ過の方法を考えたらいいよ」とアドバイスされていた。

 ああ、この優しさ。これが杜氏組合なのだ。こうして酒造技術は後世に受け継がれていくのだと思った。

 いのうえ・みつる 1951年生まれ。「肥前杜氏」として半世紀にわたり酒造りに携わる。現在、有田町・松尾酒造場(宮の松)に勤務。九州酒造杜氏組合長。唐津市肥前町納所。

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