横綱らしからぬ取組だった。九州場所2日目。真っ向勝負を挑んだ平幕を受けきれず、わずか3秒で押し出された。日馬富士である。「これで引退かも」と頭をよぎったファンもいただろう。それでも、懸命に一人横綱を努めた先場所を思い出し、拍手を送るつもりだったのではないか◆それが、思いもよらぬ形で裏切られた。日馬富士が、同じモンゴル出身の貴ノ岩に暴行した疑いが浮上した。態度が気に入らないとビール瓶で殴ったという。頭の骨を折った貴ノ岩は初日から欠場し、日馬富士は黒星を重ねた。土俵に集中できなかったに違いない◆9月の秋場所、あのときも日馬富士の引退が近いという予感があった。けがを押して出たものの、平幕相手に3連敗。それも、サーカスの宙返りのように1回転させられた。力負けは明らか。が、そこから踏ん張り、千秋楽に逆転優勝してみせた◆後に明かされたが、心折れそうな日馬富士を奮起させたのは、おかみさんのひと言だったという。「横綱土俵入りのない場所ほど寂しいものはありません。15日間、土俵入りだけでも」。相撲ファンを思いやる言葉が、土壇場で踏みとどまらせたわけだ◆酒の席で何があったのか。ビール瓶を握ったとき、声援を送るファンの顔がよぎらなかったか。横綱らしからぬふるまいに、ただただ落胆する。(史)

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