人々は仏像を前に何を思うだろうか。心の平穏、祈り、信仰…。東京国立博物館で開催中の「運慶展」を見た(26日まで)。最も名高い仏師・運慶は平安から鎌倉、政治の主役が貴族から武士へと移る時代に生きた◆門外不出の東大寺南大門「金剛力士像」はないが、代表作が並ぶ。20代のデビュー作「大日如来坐像(だいにちにょらいざぞう)」は優しく慈愛があふれる。傑作とされる「八大童子立像(はちだいどうじりゅうぞう)」は8体の少年像。張りのある肉付き、指先に至るまでの表情の妙、玉眼(ぎょくがん)からの光の深さ、鋭さ。比類のない技量に魅せられる◆優美な仏もダイナミックな武神像も、それぞれに個性的で、みなぎる気が見る者に迫った。「語りかけられているみたい」。観客から声がもれたのもうなずける◆祈りの世界に浸ったからだろうか、俗世のすさみに、がく然とする。神奈川県座間市で9人の遺体が見つかった事件。被害者たちの身元が分かった。夢は漫画家。自立のためのアルバイト。バンドツアーを楽しみに…。一人一人にあった未来が、断ち切られた無念を思う◆仏像は見る側の心のありようで穏やかに、あるいは慈悲深く、また厳(いか)めしくと変化するように感じる。「像」とではなく「己」と向き合わされるからかもしれない。座間事件の容疑者なら、どう映るだろうか。深い闇の底に祈りの光が届かなかったのが悔しい。(章)

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