米国を除く環太平洋連携協定(TPP)参加11カ国は、カナダが異論を唱えたため予定されていた首脳間合意は見送られたものの、交渉の末、大筋合意に達した。

 最終段階で参加国の不満が表面化したことは前途多難を思わせるが、発効に向けた最低限の土台が整ったことは確かだ。保護主義が台頭する中で、貿易自由化を維持する橋頭堡(ほ)を築けたことの意味は決して小さなものではない。

 11カ国での発効を目指しつつ、最終的には離脱した米国に翻意を促し復帰させたい。交渉にリーダーシップを発揮した日本は、その先頭に立つべきだ。世界最大の経済大国の米国が枠外に位置する状態は、TPP体制の不安定化につながりかねない。米国が参加してこそ、自由化の範囲が広く水準が高い、公平・公正で安定した経済圏を構築することができる。

 米国は多国間の枠組みに背を向け、相手国との2国間交渉で自国に有利な条件を盛り込んで貿易赤字を解消することに躍起だ。カナダ、メキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)、米韓自由貿易協定(FTA)を巡る再交渉で見せる強引な姿勢には国際的な批判も高まっている。TPP離脱はトランプ大統領の選挙公約でもある。

 そんな米国に、復帰に向けた再考を受け入れる余地があるのか。現状を素直に見れば悲観論に傾くのは仕方ない面もある。しかし絶望するには早すぎる。

 雇用を維持・創出し赤字を減らすためには、2国間と多国間の交渉のうち、どちらが総合的に優れているのか。TPPには、米国が振り向かざるを得ないような状況をつくり出す可能性があるのではないか。

 TPP合意に関連し米農務省は、米国産豚肉の対日輸出に逆風が強まるとの報告書をまとめた。TPP参加国の日本市場へのアクセスが大幅に改善され、米国が不利になるとの分析だ。こうした状況を覆そうと、米国は日本との2国間交渉で攻勢をかけてくるとの見方もある。だが、日本としては、TPP参加国と同等の条件を求めるのなら、TPP復帰が筋だと突き返して交渉を運ぶこともできる。

 米国が2国間交渉を持ちかけた場合に、TPPを持ち出すことの有用性は日本に限った話ではない。参加各国は、米国が力関係を背景に一方的な市場開放を求めるようなら、TPPで定めた基準を盾に対抗できる。こうしたことが積み重なり、米国の2国間交渉で停滞が続けば、米国はおのずからTPPに目がいくようになる可能性がある。英有力紙は米国の通商交渉について、今後は孤立が深まるとの見通しを指摘している。

 利害が複雑に絡み合う多国間の経済交渉では、それぞれが十分に納得できる満点を取ることはできない。妥協を重ね全体として最適な状況を目指す作業だ。

 国際交渉の場では、通常、首脳が登場する前にこの段取りは完了している。この観点からすると、今回のカナダの振る舞いは何があったか詳細は不明だが、異例と言える。ここは日本が丁寧にケアしていきたい。これから各国で細部を詰めたり、国内手続きを進めたりする作業が本格化する。ようやくたどり着いた大筋合意だ。参加国の結束を最優先して発効を確実なものにしたい。

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