韓国の朴槿恵(パククネ)大統領が職務停止に追い込まれた。朴氏の親友による国政介入疑惑に対する国民の怒りはすさまじく、韓国政治の先行きは見通せない情勢が続く。

 親友の崔順実(チェスンシル)被告の逮捕から、わずか1カ月半。この間、崔被告が大統領の演説原稿に手を入れ、高官人事に口を出し、多額の資金を企業から引き出していた実態が明らかになってきた。朴氏はクリーンさを売り物に登場しただけに、国民は裏切りに深く失望し、怒りを爆発させたわけだ。

 弾劾可決でひとつの決着を見たが、混迷はさらに続く。国会の弾劾を受けて、憲法裁判所が最終的な判断を下すのは「180日以内」で、罷免されたとしても大統領選挙までは「60日以内」と定められており、政治的な空白が続く。

 たとえ朴氏が罷免を免れたとしても、支持率は4~5%まで落ち込んでいる上、支えるはずの与党議員まで雪崩を打って弾劾に賛成したとなれば、再び求心力を取り戻すとは考えにくい。速やかに事態を収束させるため、朴氏は自ら身を引くべきではないか。

 大統領の職務は黄教安(ファンギョアン)首相が代行するが、黄首相は朴氏から任命されたわけで、強力なリーダーシップなど期待しようもない。政局は次の大統領選挙へと移ったが、選挙の時期がはっきりせず、取り沙汰される人物はいずれも準備不足で、本命が見当たらない状態だ。

 韓国の政治空白は、日本にとっても人ごとではない。昨年末、慰安婦問題で日韓は最終合意にこぎつけ、日本側が資金提供した財団が元慰安婦らに現金の支給を進めている。ところが、韓国側が履行するはずの日本大使館前の少女像の撤去は一向に進む気配もない。

 特に気がかりなのは、日韓両政府が安全保障分野の機密情報を共有する日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の行方である。これまで日韓は米国を通じて情報を共有してきたが、協定締結により、情報が直接やりとりできるようになった。核実験とミサイル発射を繰り返す北朝鮮の脅威が増しており、日韓双方にとって利益は大きい。

 ただ、朴氏は先月、国内世論を押し切る形で協定締結に踏み切っている。このため、国民の「反朴」を強める動きの中で、協定に批判の矛先が向きはしないだろうか。協定の見直しにまでは至らないにしても、実質的な機能停止に陥りはしないか、不安がぬぐえない。

 北朝鮮は短期間に核実験やミサイル発射を繰り返すなど、挑発的な動きを続けてきた。国連も北朝鮮の主な外貨獲得源である石炭輸出に上限を設けるなど、厳しい制裁に乗り出している。反発する北朝鮮がさらなる挑発行為に打って出ないか、韓国の政治空白と相まって予断を許さない。

 日中韓首脳会談も厳しくなってきた。議長国を務める日本政府は朴大統領に代わり、黄首相の参加を探ってはいるが、実現は容易ではない。韓国の政治空白に加えて、米国もトランプ次期大統領への移行期に入り、東アジア地域の国際的なパワーバランスが変わりつつある。事態の行方を見極めつつ、日本としては改善し始めた日韓関係を後戻りさせないという基本姿勢を堅持するしかないだろう。(古賀史生)

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