澄んだ秋空に名調子が響く。「江戸でいうたら多摩川の、京でいうたら鴨川の、佐賀でいうたら嘉瀬川の、水でさらした玉の肌」―。つられて「買った!」の声。バナナのたたき売りである◆台湾バナナを載せた船が着いた下関が発祥だが、たたき売りの口上には、いくつかの流儀がある。その中でも正統派とされる佐賀流が健在と聞き、秋祭りでにぎわう佐賀市の龍造寺八幡宮に出かけた。名調子の主は『ふるさとあのころ』の著書もある郷土研究家の相浦實さん(79)=小城市三日月町=で、佐賀流を守り続けてきた北園忠治さん(89)=鹿島市=から学んだ◆たたき売りと言えば、映画「男はつらいよ」の寅さんをイメージするが、あの威勢の良さは「啖呵売(たんかばい)」と呼ばれ、佐賀流とはまったく違う。佐賀流は即興を交えたユーモアたっぷりの歌である。「唄売り」とも表現される◆ゆったりしたテンポで「うちの母ちゃん、気のきかん。私のしゃべりはトンチンカン…」「安うなったら人の買う。買い損なったらみたんなか(みっともない)」と笑わせながら売りさばく。北園さんの著書には「佐賀では四時間で一トン黒字販売をして初めて一人前」とも◆後継者は少ない。「この文化は何とか残さにゃいかんし、呼んでもらえば、どこででも実演する」と相浦さん。伝統をつなぐ人を待つ。(史)

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