〈思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを〉。愛いとしい人のことを思いながら眠って、会うことができた。夢と分かっていたなら、起きなかったのに。夢でもいいから、と小野小町(おののこまち)は詠んだ◆横田滋さん(84)と早紀江さん(81)夫妻は、夢でしか会えない娘、めぐみさん(53)を待ち続ける。北朝鮮に拉致されて15日で40年。「畳をかきむしり、毎日泣いていた」と話す両親の講演を佐賀市で聴いた。12年前のことだが、時折声をつまらせながら話す2人の悲しげな姿が、脳裏に残る◆連れ去られた日以来、心の底から笑えたことはないだろうと思うと、怒りがこみ上げる。「ひと目でも会いたい」。その思いは横田さん夫妻だけでなく、老いを迎えた拉致被害者家族の心情に共通する◆その家族や被害者の曽我ひとみさん(58)らが、来日中のトランプ米大統領と面会した。一人一人と握手して、いたわりの言葉をかけた大統領は「とても悲しい物語を聞いた」と感想を語った。「家族のもとに帰すため、ともに力を合わせていく」。解決への努力を約束したことは、先へ進むための布石になったと信じたい◆〈はろばろと睦(むつみ)移りし雪の街に娘を失いて海鳴り哀かなし〉。早紀江さんが娘を思い、初めて作った短歌である。会わせてあげたい。何としてでも救い出さねば。(章)

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