全国の国公私立小中高や特別支援学校を対象とする文部科学省の2016年度問題行動・不登校調査で、いじめの認知件数が32万件を超え、過去最多を更新した。前年度から10万件近い増加となった。けんかや、ふざけ合いといった軽微なものまで積極的に把握するという文科省の方針もあって、学校現場で掘り起こしが進んだとされる。

 さまざまな統計が並ぶ中で、自殺した児童生徒244人のうち3人が「教職員との関係」で悩みを抱えていたとの調査結果が気にかかった。教員に激しく叱責され、今年3月に自殺した福井県の池田町立池田中2年の男子生徒も含まれるとみられる。学校での指導などがもとで自殺により子どもを失った親の会はそれを「指導死」と呼ぶ。

 男子生徒は、聞いている人が身震いするくらいの大声で怒鳴られていたという。町の調査委員会は「執拗な指導」などが自殺の原因とした。ただ指導死は暴力を伴わないことが多く、表面化しにくい。07~15年度には児童生徒13人が教職員との関係で悩み自殺したとされるが、氷山の一角というのが大方の見方だ。

 男子生徒の母親は「教員による陰険ないじめ」と手記につづった。学校を信頼できるかが問われている。どの学校も対岸の火事では済まない。いじめへの取り組みにも影を落としかねず、実態の把握と対応を急ぐべきだ。

 男子生徒は校門前で担任から大声で怒鳴られた。昨年10月のことだ。運営を担当したマラソン大会の準備の遅れが理由だった。翌月には部活動でけがをして宿題を提出できないと説明したところ、副担任に「できないなら、やらなくていい」などと責められ、今年に入って職員室の前で、また担任から怒鳴られた。

 校長と教頭は担任が怒鳴るのを目にし、生徒と副担任の関係に問題があると報告も受けたが、口は出さなかった。教員の一人から、生徒の特性に合った指導方法を考えるよう助言されると、担任は「手加減している」と答えた。そんな中で、生徒は「どうしていいか分からない」と泣きながら母親に訴えたという。

 驚かされるのは、自殺後の職員会議で担任の叱責が問題とならなかったことだ。調査委の聞き取りでも、ほとんどの教員が重要な問題とはとらえていなかったことが分かっている。校長は自殺当日の記者会見で原因について「分からない」と答え、遺族からの抗議で後に訂正し、謝罪した。

 叱る必要があっても行き過ぎれば「言葉の暴力」になるという認識が欠けていたのか、あるいは保身なのか。いずれにしても、極めて危うい状況と言わざるを得ない。

 12年には大阪市立桜宮高校のバスケットボール部主将の男子生徒が顧問から平手打ちや暴言を繰り返され、自殺。遺族は市に損害賠償を求める訴訟を起こし、昨年2月に体罰と自殺との因果関係を認め賠償を命じる判決が出た。指導死の典型と注目を集めたが、池田中の教員らにはひとごとでしかなかったのだろう。

 いじめ自殺を巡り「いじめは引き金でない」とする学校と遺族が対立することも珍しくない。さらに指導死問題で学校の無関心や、隠蔽ともとられかねない対応によって児童生徒や保護者の信頼を失えば、深刻化するいじめの解決まで遠のかせてしまうことを教育現場は肝に銘じてほしい。(共同通信・堤秀司)

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