秋の夜長をどう過ごそうか。芸術の秋、読書の秋とくれば…、ぴったりの一冊がある。恩田陸さんの長編小説『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎)は昨年、直木賞と本屋大賞を史上初めてダブル受賞しており、おもしろさは折り紙つき◆「文字通り、彼は『ギフト』である。恐らくは、天から我々への」―。ピアノコンクールに挑む若きピアニストたちの群像劇で、ピアノさえ持たない養蜂家の少年が放つ圧倒的な才能を軸に、物語は進む。才能とは何か、努力とは。過酷なコンクールの舞台で、若者たちは自らの人生にどう折り合いをつけるか、厳しく突きつけられる◆奏でられる音楽も魅力的だ。「まるで、雨のしずくがおのれの重みに耐えかねて一粒一粒垂れているような―」。ピアノの響きが、観客のざわめきが、ページから伝わってくる。実際に聴いてみたいと思う人も多かったのだろう、作中の課題曲を集めたCDまで出ている◆本屋大賞は、書店員が「自分たちが本当に売りたい本を選ぼう」と始まった。プロ作家が選ぶ直木賞に対抗する狙いだったが、この『蜜蜂と遠雷』は暗黙のルールを突き破ってダブル受賞した◆「せめて文庫本は貸さないで」と出版社が図書館に懇願するほど本が売れない時代。それでも、ずっと手元に置いておきたい珠玉の一冊は誰にもある。今は「読書週間」。(史)

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