衆院選で「改憲勢力」が圧倒的多数を占めたのを受けて、安倍晋三首相は9条を含む憲法改正の実現に向けて本格的に動きだす構えだ。

 選挙後の記者会見では、自民党の改憲案を国会の憲法審査会に提示し、議論を加速させる考えを表明。来年中の国会発議や、2019年に発議し、夏の参院選と改憲の国民投票を同時に実施する日程も取りざたされる。

 しかし改憲勢力と言っても各党が重視する改正の条項は異なり、そもそも意見がまとまっていない政党もある。今回の衆院選で改憲の必要性を有権者に訴えた候補者がどれほどいただろうか。

 改憲は最終的には国民投票に委ねられる。共同通信社の世論調査では、安倍政権下での改憲に「反対」との回答が過半数を占めており、国会で強引に発議しても国民の理解は得られないのではないか。憲法の意義を再確認しながら、どこを、なぜ、どのように改正するのか。丁寧でオープンな議論を積み重ねるべきだ。

 改憲の国会発議には衆参各院で「総議員の3分の2以上」の賛成が必要。衆院選の結果、国会では自民、公明両党、希望の党、日本維新の会の改憲勢力が3分の2を大きく超え、約8割を占める。首相に近い議員は「天の時を得たと確信している」と意気込んでいる。

 改憲勢力は現在、参院でも3分の2の議席を持っており、改憲派としては19年の参院選までの間に国会での発議を実現したい考えだろう。

 しかし改憲勢力と言っても内実はさまざまだ。そもそも首相の足元の自民党自体がまとまっていない。自民党の改憲推進本部は選挙前に9条、教育無償化、緊急事態条項新設、参院選の「合区」解消の4項目について議論を進めたが、どの条項でも意見は割れていた。

 自民党の選挙公約は重点項目に初めて改憲を掲げた。だが4項目を列記しただけであり、特に9条に関しては「自衛隊の明記」と書いただけだ。

 9条改正について、首相は戦力不保持を定めた2項を残したまま自衛隊を憲法に明記する「加憲案」を提案している。しかし党内には2項を改正すべきだとの意見も根強い。今回の大勝で首相案が通るようでは党の議論の在り方が問われる。

 公明党は改憲勢力に数えられるものの、9条改正に積極的とは言えない。選挙公約では「多くの国民は自衛隊を憲法違反とは考えていない」と指摘、憲法に明記する必要性を疑問視している。

 選挙後の連立政権合意の文書でも、自民党との交渉の結果、改憲に関しては「国民的議論を深め、合意形成に努める」との表現に抑えた。

 希望も党内はまとまっていない。公約は9条について「改正論議を進める」としたが、選挙では慎重論を訴えて当選した議員もいるのが現実だ。

 今後の国会論議で重要になるのが野党第1党となった立憲民主党の存在だ。枝野幸男代表は改憲を否定しないが、人権尊重などの基本理念を実現していく方向での改正議論を主張。首相の解散権の制約や国民の知る権利の明記を掲げている。

 首相は「与野党にかかわらず幅広い合意形成を目指す努力を重ねる」と会見で述べた。国会発議という手続きは、国民投票の前に国会で議論を尽くすよう求めたものだ。各党、議員はその重い責任を自覚して議論に臨んでもらいたい。(共同通信・川上高志)

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