1人暮らしの障害者の自宅を訪ね、世間話をする中尾彰宏さん(左)=佐賀市

 頸(けい)椎(つい)損傷で車いすを利用している歯科医院副院長、中尾彰宏さん(40)=佐賀市=が、障害者の安否を確認する巡回活動に取り組んでいる。1人暮らしの4人の障害者宅を、車いすで週に1回訪ねて1年3カ月。地域社会の中で孤独感や生きづらさを感じている人たちの声に耳を傾け、安心につながるように関係機関へつないでいる。

■世間話

 「その後、体調はどうですか?」。9月中旬の佐賀市の住宅街。中尾さんが車いすで片道30分をかけて訪れた先は、脳に障害がある50代男性の自宅だった。

 この時の話題は天気や野球で、いわば世間話。玄関口だけでのやりとりだが、異変がないか目を配る。「何かで落ち込んで部屋が散らかっていないか、寂しさで酒の空き缶が増えていないか。そんな変調の『サイン』を確認するんです」。生活や体調に変化があれば、自治体の社会福祉の担当部署や障害者の支援団体に連絡を入れている。

 「自分にできることで地域社会と関わっていきたい」。そんな思いで、障害者宅を巡回する会社「スロープ」を1人で立ち上げたのは昨年7月のことだった。

 歯科医だった中尾さんは30歳のとき、頸椎を損傷した。趣味のサーフィンで訪れた長崎県で海に飛び込んだ際、岩に強く頭をぶつけて手先や下半身が動かなくなった。ふさぎこんだ時期もあったが、2年後からは父親が経営する歯科医院で事務を担当。障害者を対象にしたビジネススクール「ユニカレさが」(佐賀市)に昨年通ったことをきっかけに、住まいを借りる際に保証人を頼める人がいない障害者らをサポートする活動や、安否確認の巡回に取り組むようになった。

■逆風

 「施設から地域へ」-。国は障害者の自立や社会参加を進める狙いで、障害者の地域移行を目標に掲げている。現実は、就労の側面一つをとってみても、雇用の場は限られている。

 中尾さんが巡回活動で接してきた人たちは収入が限られ、バス停や駅から離れた安いアパートに住んでいるという。自然と生活スタイルが内向的になりがちといい、「会いに行かないと1週間、誰とも話さない人がいる。体調が悪くなったとき、助けを求められない恐れもある」。

 近所づきあいの希薄化を「逆風」と捉えている。「社会福祉やボランティアという枠組みの中で受けるサービス以外の『ちょっとした親切』がなくなってきているような気がする」。困り事の相談を身近な人に切り出しづらい雰囲気があり、共生社会の実現には時間がかかると感じている。

 中尾さんは「社会に頼るばかりでもいけない」と話し、障害者が地域社会の一員として活動するモデルをつくりたいと考えている。見守る側の障害者の仲間が増え、活動の輪が県内や全国に広がることを願っている。「スロープを立ち上げたときのように、障害があるからといって気後れせず、社会との何らかの接点を探っていくことが真の自立につながる」。そう信じている。

 ■ひたむきに、前向きに生きている人たちがいます。そんな佐賀県内の人たちや県出身者にエールを送る企画です。(随時掲載)

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