発表を終えて全員で記念写真に収まる参加者

 

 藩校しようぜ―。参加者の大きな掛け声でスタートした「弘道館2」。初回講座は、多久出身で世界を舞台に活躍する画家の池田学さんを講師に、県内外の若者27人が、県立佐賀城本丸歴史館に集まった。「想像力」をテーマに、敷地内で拾った石を観察して感じ取った印象や感触を鉛筆に乗せて表現した。会場には座卓が並び、当時の藩校さながらの雰囲気の中、身近なものに想像力を加え、独自の世界観を創り出す池田さんの発想法に刺激を受けていた。

【弘道館2とは】
 「弘道館2」は、佐賀県内の若者たちを対象に、さまざまな分野の最先端で活躍する県内ゆかりの講師を招いて学ぶ講座。コーディネーターは電通の倉成英俊さん。11月25日には竹下製菓の竹下真由社長、12月16日にはホリプロの下尾苑佳プロデューサーを講師に授業を開く。ネット中継やアーカイブ配信も行う。問い合わせは事務局(プライム内)0952(40)8820まで。

 

池田学さん講演 佐賀とわたし 想像力の原点

 

 山に囲まれた多久で生まれた。ファミコンもなく毎日、虫を捕ったり魚釣りに行ったり、外で遊ぶことが多かった。絵は頑張っていたというよりも常に当たり前のようにあって、捕まえてきた虫を観察して描いていた。
 虫は隠れるから穴をのぞいたり、石の下を触ったり。魚はどこに潜んでいるか探すことが習慣で、想像することが大切だった。だから全体よりも部分を見て、常にどうなっているか想像する癖がついた。
 東京生まれだったら作風が違っていたと思う。原点は多久にある。若い頃は、都会に憧れて刺激的な生活を送りたいと思っていた。でも東京に住むと、自然が少なく、大事に残されているものだった。そこで初めて佐賀の環境のすごさを知ったし、気持ちも佐賀に戻ってきた。
 絵を描く時もビルやコンクリートの垂直や無機質なものからはアイデアは生まれない。曲がりくねった枝や水の透明な泡とか自然のものからインスピレーションが生まれてきた。それは多久に生まれたからだと思う。
 東京芸大に入学後、ストイックな受験勉強の反動で、燃え尽き症候群のようになった。まじめに学校に行かず、絵に打ち込んでいなかった。自然が恋しくて、心が勝手に動かされ、気付いたら山岳部に入っていた。山には今にも崩れ落ちそうな岩を樹木の根っこが支えている様子など見たことのない風景がたくさんあった。

 

 卒業制作で山の光景を描こうと思った。とりあえずペンで描きながら発想を広げようと、下書きを先生に見せると、継ぎ足して大きなものを作れば面白い作品ができると言われた。細かく描くことが好きだったので、アドリブを加えながら、2メートルほどの岩を描いた。大学でくすぶっていたものが出せた。大学の賞をいただき、展覧会で画商さんに声を掛けてもらった。先生の助言がなく、山にも行かず大学の課題をこなすだけだったら、今の自分はないと思う。
 卒業後、予備校講師や法廷画のアルバイトで生計を立てた。作品を描いても見に来てくれる人は、家族や友達ばかり。展覧会を開くため、DM(招待状)を作った。つまらないと思われれば捨てられるので、大きめでインパクトのあるものを作った。画商さんから、そんなことをするより絵を描いてといわれたが、作品を見てもらうには来てもらわなければならない。DMは大切なものだからやらせてくれといった。美術関係者の連絡帳という本があって、評論家などに300枚ほど送った。
 1週間後、サングラスをかけた偉そうな人がふらっと訪れた。ソファにどかっと座り、作品ファイルを見せてと言われた。それが現代アートのトップギャラリー「ミズマアートギャラリー」の三潴さんだった。招待状がたくさん来て捨てることも多いけど、「これが気になって」と大きなDMを取り出した。その場で海外出展の話が具体化した。それ以降、「三潴さんから聞いた」と、お客さんが増え、世界が一変した。
 自分でDMを作らなければ成し遂げられなかった。待っていても道は開けない。本能にしたがって行動することが大切だと思った。

 

ワークショップ

 

 「石と格闘する」。池田さんは参加者たちに、石をじっくり観察して想像を膨らませ描くことを「格闘」と表現して伝えた。
 選ぶ石について池田さんは「僕だったらまん丸ではなくてゴツゴツしたものを選ぶかな。その方が表情があるから」とアドバイス。参加者らは佐賀城の西門付近などで、こけがついた石や、貝の化石が入った石などを収集した。
 いよいよ実践。まず池田さんが実際に絵を描く前に行う「鉛筆をカッターで削る」ことから始めた。「よく観察し想像を膨らませること。例えば、もし自分が小さい人間になったらその石はどう見えるかなどを考える」と池田さん。参加者らは約3時間、集中して石をじっくり観察し、HBや2Bなど濃さが違う鉛筆を使い分け白紙に描いた。「観察するって輪郭のことだけじゃない。色を見ると石の中では白でも紙の白と比べると暗い場合もある」、「見方も机の上で見るだけじゃなく手に持っていろいろな角度から見てみて」など池田さんのアドバイスに、参加者らは熱心に耳を傾けメモを取った。悩みながらも家やタンポポ、女体などを想像した個性が光る「石」の絵を完成させた。

 
 

 

発表会

 

 3時間、拾った石と向き合い発表会に臨んだ参加者たち。座卓に27作品を並べて見て回り、一つ一つ見比べた。描き切った達成感や思い通りに描けなくて複雑な表情を見せる参加者もおり、それぞれの思いが入り交じっていた。
 一通り見て回ると、輪になって一人1分で出来上がった作品を紹介。作品を手にして、「断面のしま模様が地層に見えたので、下から上に歴史の流れを描いた。下の暗闇は地球ができる前の宇宙を表した」、「触ると冷たかったので水の中にいたんだと思い、水に落ちていく石を描いた」、「石の模様や質感を再現することに集中し、想像を膨らませることができず、ほかに付け足すことができなかった」などと作品への思いを語り合った。
 発表を聞いた池田さんは「予想以上に、自分の世界を表現した作品が集まったのはうれしい」と述べた上で、「小さな石ころでも自分の感情が揺さぶられるんだから、世の中にある全てに可能性が隠れているはず。石ころから教えてもらったことはたくさんあると思う。今日がみんなの今後に少しでも生かされることがあればうれしい」と語り掛けた。

 

参加者感想

 

■山口知咲さん(16)=佐賀北高芸術科1年=
 普段は落ちている石を意識して見つめることもなかったので、とても想像力が鍛えられた。石を見ていると、石の中で物語が進んでいくように感じた。鉛筆を使って白と黒の濃淡で描くのは難しく、立体的にはできなかったけど、石の細かいところは描けたと思う。今日は周囲に何げなくあるものでも想像力を膨らませれば、いろんなふうに描けることを学んだ。将来も絵を描き続けて、さまざまなことに挑戦していきたい。

 

 

■荒木良祐さん(19) =佐賀大学1年= 
 絵には興味なかったけれど昨年、池田さんの展覧会に友達に誘われて行って圧倒されたことから参加。
 表面で見た時と手に取って見た時とで違う面があったのが印象的でこの石に決めた。こけがついて地球に見えたので地球を描こうと思ってたけれど、観察するうちに顔に見えてきた。左右で表情が違うようにも見えたので、左は怒り、右は悲しみを表現した。
 石をいろいろな方向から観察することから、一つの物事に対して多くのことを見る必要性を改めて確認した。一つの考え方に縛られずさまざまな見方が大事だということを学んだ。

 

■北川ひとみさん(20) =九州大法学部3年=

 好きなことを一生懸命やって創作し、見る人を楽しませる池田さんの姿勢に魅了された。今までは絵を通じて、自分のメッセージを伝えることに重きを置いており、楽しんでもらうという視点が欠けていたことに気付いた。今日は対象を意識してしっかりと観察することの大切さが分かり、今後の創作に生かしていきたい。これからも絵を続けて、世界中で活躍している池田さんのように、多くの人と交流して仲良くなりたい。

 

 

 

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