これを青天井というのだろうか。東京電力福島第1原発の事故処理費用が3年前の想定と比べ2倍の21・5兆円となることが明らかになった。今回の試算も根拠は曖昧で、最終的にどこまで膨れあがるか、予測も難しい。事故を起こした東電だけで負担できず、一部は国民にツケが回る。

 試算見直しの結果、全項目で大幅増となった。爆発した原子炉施設の廃炉が当初の2兆円から8兆円に増額、避難住民や農業被害などへの賠償金が5兆4千億円から7兆9千億円、広範囲に拡散した放射性物質の除去が2・5兆円から4兆円、除染廃棄物を保管する中間貯蔵施設整備が1兆1千億円から1兆6千億円に増える。

 特に廃炉は4倍増だ。炉心溶融で溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しが想像以上に難しいためだ。デブリは強い放射線を出すために危険な作業となるが、デブリの正確な位置、形状すら把握できず、取り出し方法さえ決まっていない。本当に「8兆円」で収まるのかさえ疑わしい。

 本来なら事故を起こした東電が全額負担するのが筋だろう。しかし、同社の純利益は原発が稼働していた震災前でも2000億円前後。会社の利益で21兆円を捻出するには100年かかる計算になる。リストラなどの合理化や資産売却を進めるのは当然だが、それでも追いつける額ではない。経産省が進める国民負担のスキームづくりは東電が経営破綻しないための支援策と言える。

 賠償金については、大手電力会社が原発事故に備えて積み立てていたが、今回の事故では2兆4千億円ほど足りない。全国の消費者が月18円(標準家庭)を40年にわたって、電気料金に上乗せして支払うことになる。

 ただ、避難の長期化などで賠償金がさらに膨れあがる可能性もある。また、廃炉費用は東電が合理化によるコスト削減で対応するというが、それで足りるのか。今回の電気料金の上乗せが、今後の値上げの悪しき前例とならないようにチェックする必要がある。

 電力自由化により、消費者も脱原発の新電力を選べるが、上乗せ金は払わなければならない。国は「過去、原発の安い電気料金の恩恵を受けてきたはず」と説明する。ただ、負担増を求めるなら、国民の目に見える議論が必要だろう。政策決定過程が不透明なところに国民の不満は大きい。今回も非公開の場で決まっており、不透明さは解消できていない。

 国の原発回帰は進み、電力会社は巨額の安全対策費を投じて再稼働を急いでいる。しかし、原発の大義名分だった「安い電力」という前提が大きく揺らいでいることを直視すべきだ。

 もし21・5兆円のすべてを東電管内の4500万人の電気料金でまかなうとすれば、1人の負担は48万円となり、40年間の分割でも年間1万2千円(月千円)の料金の上乗せとなる。それでも安い電力だと言えるのか。

 原発が電力の安定供給を担ってきた実績は過小評価してはならないが、過酷事故のリスクを軽視した結果が福島の事故と言える。全国民が分担しなければ払えない「21兆円」はあまりに巨額だ。今後の原発を考えるとともに、事故の徹底検証も同時に進めなければ、無意味に終わる。(日高勉)

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