中国・唐代の詩人、李白がまだ少年のころ、苦しい学業を途中でやめて故郷に帰ってしまう。その道すがら、一人の老婆が鉄の杵を砥石で一心に研いでいるところに出くわす◆李白が尋ねると、「針を作ろうと思うのです」と言う。彼はその言葉に打たれ、自らを恥じた。来た道を引き返し、ついに学業を全うしたという。中国の歴史書『唐書』に記され、「鉄杵を磨く」という故事として伝わる。近道をせず、懸命に学問や仕事に励むことの大切さをいったものである◆こちらは、どんな気持ちで仕事にあたってきたのだろうか。神戸製鋼所の性能データ改ざん問題は、想像を超えて根が深く、広くはびこっていた。納入先との約束の強度などを満たしていないのに、データの書き換えをしたという。出荷先は国境を越えており、ついに米司法省の調査も入った◆日本を代表する名門企業である。現場の社員は「コツコツ誠実に」との職人魂を胸に仕事をしていたのだろうが、工場の管理職も含め、組織ぐるみでの改ざんという深い闇で見失ったか。「ものづくり日本」。日産自動車の無資格検査問題もあって、その看板が泣く、いや落ちかねない危機である◆「鉄」にまつわる故事成語は多い。厚かましく恥を恥と思わないのなら、不正に関わった人たちは「鉄面皮」といわれても仕方なかろう。(章)

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