団地の中にある公園。以前は子どもたちの声が響いていたが、近年は遊ぶ子も少ない=鳥栖市浅井町

■衰退防ぐ実のある話を

 安倍政権が「地方創生」の看板を掲げて3年が過ぎた。人口減少の克服や東京一極集中の是正を狙うが、今回の衆院選では別の争点に隠れ、地方絡みの政策はあまり聞こえてこない。

 「そもそも地方創生なんて、縁遠い話ですね」。公営住宅が立ち並ぶ鳥栖市浅井町の区長、田原正信さん(63)はつぶやいた。

 昭和50年代に団地に移り住んだころは子どもたちの声があふれていた。夏休みのラジオ体操は「目覚まし代わり」になるほどだった。今では高齢者だけの世帯が増え、人口が増加傾向にある鳥栖市の中で、町人口は10年前から220人以上減り600人を切った。

 2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、政府は地方自治体に5年計画の「地方版総合戦略」の策定を求めた。自治体が取り組む産業振興や移住施策を支援し、佐賀県内にこれまで投入された地方創生関連交付金は約53億9200万円に上る。

 重点施策を盛り込んだ本年度の基本方針では「自助の精神で自らのアイデアで未来を切り開く」とうたうが、高齢化が顕著に進む地域では、打つ手は限られると田原さんは考える。「暮らしを維持するので精いっぱい。若者も離れていくばかりだし、何かに挑戦しようという人は誰もいない」

 地方創生は若者の地方定着も狙うが、県がまとめた統計を見ると、昨年3月に県内の高校を卒業して大学などに進学した生徒4010人(既卒生を含む)のうち、県外に転出したのは3229人で、全体の80・5%。地方創生が掲げられた14年の県外進学者は79・9%の3192人で、ほとんど変化はみられない。

 政府は、大学進学を機に地方から東京に移り住む若者の数を抑えようと、東京の大学定員を抑制する方針だ。ただ、こうした施策が地方停滞の本質的な問題解決につながるのか、疑問視する声は少なくない。

 「考え方としては認めるが、将来の選択の幅を狭めるのはやはり違う」。佐賀大学全学教育機構の五十嵐勉教授(農村開発論)は指摘する。教育環境の充実や雇用機会の確保など、若者を受け入れていく努力を地域ぐるみで重ねた上で、「地方で学んだり働いたりする魅力を感じてもらえるようにしなければ始まらない」と強調する。

 国の役割としては「地域格差は生じており、福祉やインフラの維持など必要なセーフティーネットには税金を投入していかざるを得ない」。地域間競争で取り残されがちな地方への手当てが欠かせないとみる。

 「交付金はあくまで『火付け役』。それだけでは続かない」。多久市仁位所地区区長の倉富治利さん(66)は政策に賛意を示しつつ、課題も感じている。

 交付金を活用した県のプロジェクトの一環で、多久の魅力を再発見するイベントに奔走してきたが、地元には空き家や耕作放棄地、買い物弱者の問題が横たわる。「地方創生の成功例が、ここで生かせるとは限らない。まずは自ら足元をじっくり見つめて、改善の手だてを考えることが大事」

 地域の実情を一緒に見つめ、実のある政策の実現につなげていく。そんな姿勢を政治に求めている。

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