過労死や長時間労働をなくそうと開かれた労働相談会。衆院選では、労働環境の改善の手だても有権者の関心事だ=佐賀市の佐賀県労連

悲劇いつまで 本気見せて

 ぬれた道路でバイクが滑り、投げ出された。飲食店の店長だった佐賀市の山下知子さん(42)=仮名=は一昨年暮れ、宅配中に足を骨折する全治4カ月の重傷を負った。手術直前に見舞いに来た社長は告げた。「入院中でも勤務シフトは作ってもらわないと困る。早く退院しろよ」

 電通の女性新入社員の過労自殺を巡る違法残業事件を受け、改めて社会問題化した過重労働。衆院選ではほとんどの政党が長時間労働の規制や是正を訴えているが、山下さんにはどれもきれいごとに聞こえてしまう。「人手不足にあえぐ現場の厳しさを分かっていない」。景気回復による売り手市場で、アルバイトは集まらない。正社員が休日を返上し、朝から晩まで働いて穴埋めをする。自身の月の残業時間を数えると、「過労死ライン」の100時間を優に超えていた。

 大けがをしても状況は変わらなかった。1カ月で職場復帰を余儀なくされ、装具を付けたまま激痛に耐え、立ち仕事をこなした。無理がたたって足に後遺症が残り、ストレスでめまいが続く病気も患った。「月給は20万円程度。バイト時代に比べて倍になったけれど、パワハラを受け健康を害してまで働く意味って…」。結局、退社した。

 佐賀県労働組合総連合では、人手不足が原因とみられる同様の過重労働の相談が増えている。「『代わりを連れてこないとやめさせない』と経営者から脅されたケースもある。職場に余裕がなくなり、いじめや嫌がらせが起きている」

 政府がまとめた「働き方改革」関連法案では、残業の上限規制に加え、同一労働同一賃金の実現や、一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」が盛り込まれた。衆院解散で国会提出は先送りされたが、選挙後には提案される見通しだ。

 佐賀新聞社の有権者100人アンケートではこの法案について賛成38人、反対31人と賛否が分かれた。残業時間の上限規制を初めて盛り込んだ点は評価しつつ、繁忙期は最長で「月100時間未満」と例外規定を設けた点を懸念していた。「企業が労働者を使いやすくするだけではないか」「上限は50時間程度にして、破れば罰則を科すべき」という指摘があった。

 小売店チェーンの仕入れ担当だった夫を過労死で亡くした佐賀市の50代女性は、こうした法律が歯止めになるのか疑問視している。

 仕入れ、チラシ作り、新規出店での日帰り出張、クレーム処理…。責任感が強くて仕事をこなせる人に過重な業務を会社が押しつけるのを目の当たりにしてきた。夫の携帯電話は週1回の休みも鳴りっ放し。亡くなる半年前の残業時間は月140時間を超えていた。

 「長時間労働を強いる企業の監視を強化しなければ悲劇が繰り返される」と女性。高度プロフェッショナル制度についても「時間で管理しなくなるとすれば危険。会社のために成果を上げようと、夫のように限界以上に働いてしまうことになりかねない」と憂う。

 健康を損なわず、家庭を大事にしながら働ける-。そんな当たり前の社会を実現できるのか、政策の本質や本気度を見つめている。

このエントリーをはてなブックマークに追加